22.01.28 update

第11回 成城に住んだ映画人 Vol.2 

1932年、東宝の前身であるP.C.L.(写真化学研究所)が
成城に撮影用の大ステージを建設し、東宝撮影所、砧撮影所などと呼ばれた。
以来、成城の地には映画監督や、スター俳優たちが居を構えるようになり、
昭和の成城の街はさしずめ日本のビバリーヒルズといった様相を呈していた。
街を歩けば、三船敏郎がゴムぞうりで散歩していたり、
自転車に乗った司葉子に遭遇するのも日常のスケッチだった。
成城に住んだキラ星のごとき映画人たちのとっておきのエピソード、
成城のあの場所、この場所で撮影された映画の数々をご紹介しながら
あの輝きにあふれた昭和の銀幕散歩へと出かけるとしましょう。


成城シネマトリビア─語り継ぐ映画村

文:高田 雅彦

 最近の日本映画の監督で〝成城住まい〟として有名なのは、何といっても山田洋次(かつては祖師谷団地から大船に通った)と犬童一心のお二人だろう。ほかにも名前は挙げられないが数多くの俳優諸氏が、ここ成城の住人に名を連ねている。今はなき大林宣彦監督や黒澤明、本多猪四郎らも含め、成城はまるで〝映画人コミュニティ〟のような街なのだ。

 さて、今回は成城の北側、五丁目から八丁目にかけて住んだ映画人たちを取り上げてみたい。

『若大将』シリーズで、雄一の父・久太郎を演じた有島一郎 イラスト:岡本和泉

  京マチ子邸の3ブロックほど東(成城五丁目にあたる)には、軽妙なキャラで知られる喜劇俳優・有島一郎邸があった。『若大将』シリーズでは加山雄三(若大将自身も長らく八丁目=稲垣浩邸斜向かいに居住した)の父親役を演じ、他にも『キングコング対ゴジラ』(62年)の多湖部長、『100発100中』(65年)の手塚部長刑事、『クレージー黄金作戦』(67年)の北川常務など、その珍妙なる演技で我々東宝映画マニアを大いに楽しませてくれた。一時、敷地内に地番(五丁目)を冠した「5スポット」という喫茶店(お嬢さんが仕切っていた)を持ったこともあるが、敷地の一部は今や某有名タレント氏の「ベース」となっている。

 五丁目には深作欣二監督と中原早苗夫婦が住み、子息の深作健太は成城学園に通う〝成城っ子〟から映画監督になった。中原は、成城の隣町、砧八丁目にお住いだった藤村俊二のご夫人とともに、筆者行きつけのスナックでよくご一緒したものである。

 ‶日本映画の父〟牧野省三の息子であるマキノ正博(雅弘:41年から東宝で作品を発表)と、‶喜劇の神様〟斎藤寅次郎(37年、東宝移籍)(註1)の家は成城六丁目の青柳信雄邸のすぐ近くにあった。青柳の孫にあたる青柳恵介氏(註2)は少年時代に、庭いじり中の斎藤監督から歯切れのよい〝べらんめえ〟口調で声をかけられたことと、青柳邸にはしばしば黒澤明が訪れ、酒を酌み交わしては映画談義に花を咲かせていたことをよく憶えているという。

 両監督邸のすぐ近所には、ご存知‶世界のミフネ〟三船敏郎と脚本家の重鎮・八住利雄の家があった。三船が成城学園の評議員を務めていたことを知る方は、今やほとんどいらっしゃらないだろう。三船史郎さん同様、成城学園で学んだ八住の子息・白坂依志夫は、同じくシナリオライターとして一世を風靡することになるが、いくつかの自作が成城でロケされているのは、青柳信雄監督同様、地元愛が強かったためであろう(註3)。

 怪獣映画『モスラ』(61年)の原作を担った小説家・福永武彦も、1965年頃から成城(六・七丁目)や祖師谷に住んだ。大林宣彦監督が83年に発表した小品『廃市』は、この方の短編小説をもとにしている。脚本家としては、黒澤映画でお馴染みの井手雅人もまた成城の住人であった。

 やはり近所住まいだった加藤剛(註4)は、『上意討ち 拝領妻始末』(67年/東宝=三船プロダクション製作)の撮影時には、三船自身の運転する車でよく家まで送ってもらっていたという。小林正樹監督の撮影手法(〝中抜き〟を一切しないので手間を食う)にヤキモキしながらも、俳優仲間の加藤のことは大切に扱った三船の優しさが心に染みる。

青柳信雄、斎藤寅次郎が住んだ桜並木通り。この通りでは『銀座カンカン娘』(49年)や『サザエさん』シリーズ(56〜61年)などが撮影された(筆者撮影)
三船敏郎邸があった辺りには、今や何軒もの家がひしめく。右に行けば、三船が愛車で「バカヤロー」攻撃を仕掛けた稲垣浩邸がある(筆者撮影)。右は稲垣監督 イラスト:岡本和泉

1 2

こちらの記事もどうぞ
映画は死なず

新着記事

  • 2024.03.01
    今から準備、青森県内の美術館5館によるアートフェス...

    青森県で現代美術を楽しむ!

  • 2024.03.01
    金塊強盗からスーパースターへ!信じられないような実...

    応募〆切:3月25日(月)

  • 2024.03.01
    森美術館 ブラック・アートと日本の「民藝」の融合、...

    4月24日(水)~9月1日(日)

  • 2024.03.01
    なぜ世田谷区はアーティストの街になったか。「世田谷...

    山口蓬春、植草甚一、舟越保武らも

  • 2024.02.29
    美空ひばり、成城の通りで歌う! 〝成城ロケ映画〟の...

    文=高田雅彦

  • 2024.02.29
    『ブギウギ』の淡谷のり子のドレスアップと重なる燕尾...

    東映映画『国定忠治』の名文句が忘れられない

  • 2024.02.28
    小林武史、三上博史、山口智子、種田陽平……映画『ス...

    文=河井真也

  • 2024.02.28
    破天荒なドイツのラッパーのサクセスストーリー!『女...

    3月29日(金)より全国順次公開

  • 2024.02.27
    芝居はボケ防止になるという話─萩原 朔美の日々 ...

    楽屋での雑談もまた楽し

  • 2024.02.27
    森ビルの「ヒルズ街育プロジェクト」が文部科学大臣賞...

    森ビルの街づくりが表彰される!

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

new 森ビルの「ヒルズ街育プロジェクト」が文部科学大臣賞を受賞

都市 森ビルの「ヒルズ街育プロジェクト」が文部...

森ビルの街づくりが表彰される!

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives

PEOPLE frontline Vol.1

PEOPLE frontline Vol.1

PEOPLE frontline Vol.2

PEOPLE frontline Vol.2
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!