岩崎良美はテレビアニメ第1期のオープニング曲「タッチ」、エンディング曲「君がいなければ」から、87年の第4期まで「愛がひとりぼっち」「青春」「チェッ!チェッ!チェッ!」「約束」「情熱物語」「野球」とテーマ曲を担当し続けた。「青春」は、第58回選抜高校野球大会の入場行進曲にも起用されている。「タッチ」の歌詞には高校野球応援歌と言えるような歌詞は登場しないが、高校野球を題材にした漫画とアニメが広く浸透した影響だろうか、爆発的なヒットではなかったが、21世紀の現在でも応援歌の定番として、長く愛される曲となっている。
岩崎良美の名前と歌声が広く知れ渡るようになったのも、「タッチ」のヒットによるものだろう。「タッチ」はデビュー6年目の85年に岩崎良美20枚目のシングルとしてリリースされた。作詞は、小泉今日子「渚のハイカラ人魚」「ヤマトナデシコ七変化」、少年隊「君だけに」などの康珍化、作曲・編曲は、チェッカーズ「涙のリクエスト」「ジュリアに傷心」、中森明菜「少女A」などの芹澤廣明が手がけている。昭和育ちの世代にとっては、イントロを聴いただけで、それとわかるほどビートがきいた出だしは、印象的だった。オリコン週間チャートでの最高位は12位だったが、同年のレコード大賞では、安全地帯「悲しみにさよなら」、五木ひろし「そして…めぐり逢い」、チェッカーズ「ジュリアに傷心」などと共に金賞に選出されている。ちなみに大賞は中森明菜「ミ・アモーレ〔Meu amor e…〕」だった。日本アニメ大賞主題歌賞も獲得している。
75年に歌手デビューした姉・岩崎宏美の後を追いかけるように80年に「赤と黒」で歌手デビューした岩崎良美。「赤と黒」は作詞・なかにし礼、作曲・芳野藤丸の大人っぽい曲で、今聴き直してみると、岩崎良美の伸びのある声質が活かされたとてもいい曲である。続けて資生堂「シャワーコロン」のCMソングになった「涼風」で、TBS系列「ザ・ベストテン」に「今週のスポットライト」コーナーで松田聖子と一緒に初出演。その後、2週連続第10位にランクインした。
続いてリリースされたデビュー曲の作詞&作曲コンビによる「あなた色のマノン」により、日本レコード大賞で新人賞に選ばれ、同年のNHK紅白歌合戦にも、松田聖子、五輪真弓、八神純子、田原俊彦、「大都会」のクリスタルキング、もんた&ブラザーズ、ロス・インディオス&シルヴィアらと共に初出場を果たした。姉・宏美との姉妹同時ソロ出場は紅白史上初で、出場順も良美が5番目、宏美が6番目と姉妹が続けて登場した。個人的に言えば、4枚目のシングル「I THINK SO」(作詞・岡田富美子、作曲・網倉一也、編曲・船山基紀)が好きだった。その他にも、尾崎亜美作詞・作曲「ごめんねDarling」、安井かずみ作詞、加藤和彦作曲「愛してモナムール」、大貫妙子作詞・作曲「恋・あなただけに」など、とてもいい曲を歌っている。
歌手としてのみならず、俳優としても数多くのテレビドラマや舞台に出演している岩崎良美。テレビドラマでは、84年から85年にTBS系列で放送された人気大映ドラマ「スクール✩ウォーズ」の山崎加代役が記憶に残っている。川浜高校ラグビー部の初代マネージャーだったが、交通事故で死んでしまう哀れな役だった。
舞台出演にも意欲的で、『頭痛肩こり樋口一葉』『雪国』『アニー』など、幅広い役柄で出演している。岩崎良美とは一度だけ直に挨拶をしたことがあった。94年に平幹二朗が60歳で『ハムレット』の主役を演じるのが話題になり、グローブ座で取材をさせていただいたことがあった。メイクの様子なども撮影していいということで、平さんの楽屋にいたとき、共演していた岩崎良美が入ってきた。平さんの健康を思いやってのことだろうか、野菜たっぷりの手作りサラダやフルーツを差し入れに入ってきたのだ。そのときに、二言くらい言葉を交わしただろうか。とても感じのいい女性だった。
毎年、高校野球のシーズンになると、今でも「タッチ」が自然と口をついて出てくる。先日もテレビの歌謡番組で歌っていたが、伸びのある声量に衰えはなかった。昭和、平成、令和と野球に青春を打ち込んできた高校球児たちにとって、応援ソング「タッチ」が、時を超えた共通言語になっているとしたら、なんて素敵なことだろう。
文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫