シリーズ/わが昭和歌謡はドーナツ盤
2023年を12月31日のNHK紅白歌合戦の出場で締めくくった郷ひろみ。通算36回目の出場であった。紅白にはデビューの翌年の1973年にデビュー曲「男の子女の子」で初出場を果たした。77年から80年までは4年連続で白組トップバッターを務め、トップバッター通算7回は紅組、白組通じて最多記録である。また、紅白に30回以上出場しながら、赤&白組それぞれのトリ、大トリを務めていない歌手は郷ひろみただ一人という記録も持っている。
郷ひろみは、歌手としてレコードデビューする前に72年のNHK大河ドラマ第10作「新・平家物語」で、平経盛役の少年期(青年期を演じたのは古谷一行)を演じ、一足先に俳優デビューしていた。その後、郷ひろみは俳優としても、数多くのテレビドラマ、映画、舞台に出演している。大河ドラマだけでも「草燃える」(源頼家役)、「峠の群像」(四十七士の一人である片岡源五右衛門役)、「信長 KING OF ZIPANGU」(徳川家康役)と、4作に出演している。そして、西城秀樹、桜田淳子と共演した75年のTBS系列のテレビドラマ「あこがれ共同隊」や、樹木希林とデュエットした挿入歌「お化けのロック」、「林檎殺人事件」がそれぞれヒットした「ムー」、「ムー一族」(共にTBS系列で放送)も忘れがたい。「林檎殺人事件」は、「ザ・ベストテン」では郷ひろみ初となる首位を獲得している。
デビュー曲「男の子女の子」は、72年8月1日に、CBSソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)からリリースされた。当時郷が所属していた旧ジャニーズ事務所初のソロデビューだった。オリコン週間チャートにもベストテン入りを果たすヒット曲となり、愛らしい顔と、ちょっと鼻にかかった歌声で、一躍全国の女性たちの心を掴んだ。日本レコード大賞の新人賞も受賞している。同時受賞者には森昌子「せんせい」、三善英史「雨」、青い三角定規「太陽がくれた季節」がおり、最優秀新人賞は「芽ばえ」の麻丘めぐみだった。大賞はちあきなおみの「喝采」、最優秀歌唱賞は「あの鐘を鳴らすのはあなた」の和田アキ子。後に、野口五郎、西城秀樹と共に〝新御三家〟と呼ばれるようになるが、レコード大賞新人賞を受賞しているのは郷ひろみだけである。
73年には、プロマイド年間売上1位となり、五郎、秀樹と共に〝新御三家〟と呼ばれるようになり、トップアイドルとなった。「小さな体験」、ギリシャ神話の美少年のようなコスチュームも衝撃的だった「裸のビーナス」、「花とみつばち」、初のオリコン週間チャート1位を獲得した「よろしく哀愁」、「誘われてフラメンコ」「禁猟区」「ハリウッド・スキャンダル」「マイ レディ」、南佳孝の「モンロー・ウォーク」のカバーで歌詞も一部新たに書き下ろされアフロヘア―に口髭で歌った「セクシー・ユー(モンロー・ウォーク)」、新御三家では初のCMソングとなるカネボウ化粧品のCMソング「How many いい顔」、「若さのカタルシス」など多くのヒット曲を出している。さらには「お嫁サンバ」も人々の記憶に残るヒットソングとなった。
バーティ・ヒギンズのカバー曲「哀愁のカサブランカ」、フリオ・イグレシアスのカバー曲「哀しみの黒い瞳」も話題になった。洋楽のカバー曲で言えば、ワムの「ケアレス・ウィスパー」も同名でカバーしており、同じく西城秀樹も「抱きしめてジルバ」のタイトルでカバーしたことから、フジテレビ系列「夜のヒットスタジオ」では、同一曲のカバー対決企画が実施され、郷は大人の色気を漂わせるヴォーカルで魅せた。
さらに、トヨタの5代目カローラのCMソング「素敵にシンデレラ・コンプレックッス」、日本国有鉄道(現JR)「ディスカバー・ジャパン」のキャンペーンソング「2億4千万の瞳」での「ジャパ~ン」という表現は、郷ひろみを形容するのに、現在でも使われている。この曲のサブタイトルは「エキゾチック・ジャパン」だった。

「あなたがいたから僕がいた」は76年8月1日にリリースされた郷ひろみ18枚目となるシングルで、作詞・橋本淳、作&編曲・筒美京平のコンビによる楽曲。郷ひろみ最大のヒット曲である「よろしく哀愁」と同様の曲調で、オリコン週間チャートでは2位というヒット曲になった。そしてその年の日本レコード大賞で大衆賞を受賞した。大衆賞にはキャンディーズ、中村雅俊、二葉百合子、加山雄三の5組がノミネートされていた。決戦投票でキャンディーズとの一騎打ちとなり、郷に栄冠が輝いた。この年は、ノミネート会場での予選会の投票の様子がオンタイムで中継されていたが、なかなかスリリングな画像で、決定した瞬間、郷ひろみは感極まって歌えないほど号泣した。新人賞で本選に出場して以来の受賞だった。