シリーズ/わが昭和歌謡はドーナツ盤
もう7年前のこと、古希を迎えた中尾ミエが自ら出演しプロデュースしたコメディ・ミュージカルを観た。『ザ・デイサービス・ショウ 2017 It’s Only Rock’n Roll』、手帳には〈2017年8月28日(月)午前11時、明治座〉と記してある。
とある高齢者施設のデイサービスに様々な高齢者が集うが、みな元気がない覇気がない、すでに脳力がトンチンカンな老婆もいる。中尾ミエ扮する元スター矢沢マリ子は、そんな彼らに発破をかける。「みんなで一緒に夢をみよう!」と決起して平均年齢70歳を超えようとしている連中らとロック・バンド結成に動き出す。唱歌も童謡もいいけれど、若き日、本当に好きだったのはアメリカン・ポップスやロックンロール。「そうだ、ポップス&ロックでショウを開こう」と思い立ち爺さん婆さんを束ねようとする四苦八苦は、笑いあり、涙ありの痛快ミュージカルとして十分楽しめた。中尾ミエ、尾藤イサオ、モト冬樹、正司花江、光枝明彦といった出演陣(当時の平均年齢は70歳超え)が、跳んだり跳ねたり、歌い踊って、老後の心配、介護の現実などネガティブな日常を忘れさせる舞台だった。その日の明治座館内はまさに高齢者施設と化したが、満場の観客たちは拍手喝采しながら溜飲を下げていた。
中尾ミエという歌手(女優)は、人生の区切りのようなタイミングで事を起こすのが好きなのだろう。1946年6月6日生まれ、昨年、満77歳の喜寿を迎え、記念だ、お祝いだ、と一夜限り2公演のライブを開いている。で、好評につきその余勢を駆って、本年2月9日から4日間コンサートに挑戦する。4日間とはいえ2時間にも及ぶコンサートのタイトルは、「中尾ミエ 77th birthday live No Time At All~人生もっと楽しまなくちゃ~」である。「No Time At All」とは、直訳すれば「まったく時間がない」が転じて「お楽しみはこれからよ」と宣うのだ。フツーなら高齢者施設で静かに余生を送っているおばあちゃんのお歳である。それが7年前のミュージカルの舞台そのままにコンサートとは! あの日の元気溌剌さはまだ大丈夫かよ?と言っては失礼か。
もともと洋楽系のスタンダード・ナンバーを得意とした少女だった中尾ミエ。筆者は、ちょっと不良っぽくてやんちゃな彼女に惹かれる中学生。15歳で渡辺プロ入りし、伊東ゆかり、園まりらと〝スパーク三人娘〟が結成され、日曜日の昼12時30分から8チャンネルで「森永スパーク・ショー」と銘打ったポップス系歌謡番組のリーダー的な存在だった。何だか伊東ゆかりは地味だし、園まりは妙に落ち着いていて大人っぽい雰囲気で近寄りがたく、いつもはしゃいでいた中尾ミエが目立っていた。当時は輸入音楽華やかなりし時代で、中尾ミエの明るくオキャンな感じが、そのままアメリカン・ポップスのリズミカルな歌唱に似合った。間もなく、コニー・フランシスの「Pretty Little Baby」のカヴァー曲を1962年4月25日に「可愛いいベビー」(日本語作詞:漣健児)としてリリースした。16歳の時だったが、確かな歌唱力、声の張りは、伊東、園を圧倒していたように思う。