24.09.05 update

今年4月、84歳で逝ったいぶし銀のような名バイプレーヤー、佐川満男は「今は幸せかい」を大ヒットさせる前はロカビリー歌手だった

 熱烈なファンということでなくとも、長い間、歌謡界や芸能界で生きてきた人の訃報に接すると、なぜか友人知人と別れたような一抹の寂しさが過ぎるものである。新聞の訃報記事を見てまっさきに年齢に目が行くのも、それだけこちらも歳を取ったせいなのか。
 佐川満男、享年84。

 2000年(平成12)10月から翌3月末に放送されたNHK連続テレビ小説「オードリー」がNHKBSで再放送されている。すでに再放送も終盤だが、昭和の映画業界、とりわけ時代劇全盛期から斜陽を迎える京都太秦の撮影所を舞台に、ヒロイン佐々木美月(=オードリー・岡本綾)が映画づくりに賭ける半生を描いている。産みの親(賀来千香子)と育ての親(大竹しのぶ)という2人の母、アメリカ育ちの父(段田安則)に翻弄される異形の家庭に育つオードリー(美月)は、映画会社の重鎮や名優が出入りする老舗旅館の一人娘でもあり、テレビの普及とともに映画業界の衰退を目の当たりにしながら成長する。幼馴染のうどん屋の倅・中山晋八(仁科貴)は店を手伝いながら長じて殺陣師になって撮影所入りし、陰になり日向になって、オードリーを助けている。実は、この太秦商店街のうどん屋「カツドウ屋」は、昔から撮影所の大部屋俳優やスタッフたちの溜まり場でもあり、調理場の奥から店の主人・中山八郎は彼らの愚痴を耳にし、血気盛んな映画づくりの情熱のぶつかり合いに分け入り、映画人たちの栄光と挫折、悲喜こもごもを見守ってきた。やけっぱちになって殺陣師を投げ出しそうな晋八を、どやしながらも父親としての優しさも見せる。美月の複雑な境遇も、その美月を思う晋八の心情もお見通しだ。

 このうどん屋のオヤジこそ佐川満男である。「おっ! 出てる、佐川満男だ」と画面に発見すると懐かしさが胸に広がるのだった。目立たないが、静かなるバイプレーヤーとして存在感を見せてきたのは「オードリー」だけではない。因みにNHK連続テレビ小説だけでも、「ぴあの」(94)、「やんちゃくれ」(98)、「オードリー」(00)、「だんだん」(08)、「カーネーション」(12)、「マッサン」(14)、「べっぴんさん」(16)、「わろてんか」(17)、「おちょやん」(20)、「カムカムエヴリバディ」(21)とNHK大阪制作の作品の〝常連〟だった。ドラマだけではなく、映画にも多数出演。偶然にも遺作となった『あまろっく』(本年4月19日公開)を、ボクは劇場のスクリーンで観ている。笑福亭鶴瓶が経営する鉄工所のベテラン職人役だった。この時も「おっ!出てる」と嬉しかった。鶴瓶との丁々発止のやりとりも流石で、〝ひと癖〟あっても人情味溢れるいかにも佐川の役どころだった。が、奇しくも映画の舞台となった兵庫県尼崎市での先行上映初日の4月12日に、この世を去ったのである。

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映画は死なず

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