久しぶりに水越恵子(現・水越けいこ)の「Too far away」を聴きたくなったのは、初めてプラネタリウムで満天の星を見た夜、父が夢に出てきたからかもしれない。夢の中の父は、何を言っているかわからない。怒っているのか、笑っているのか。ただ、「お母さんを連れて行かないで」と叫ぶ自分がいて、パッと目が覚めたらびっしょり汗をかいていた。
「人は死んだら星になる」という神秘的な言い伝えがある。漆黒の空に何百万個の星を散りばめた天の川や、はるか遠い光年という距離を考えると頭がクラクラしてくるが、眺めているとあの満天の星の中に父もいるのかもれないと思えてくるのだった。故人は地球を離れてからも宇宙空間に存在し続け、地球で生きるものたちを見守ってくれている言い伝えは、まんざら嘘ではないような気がしてくる。そんな宇宙への拡がりを感じる曲が、水越恵子の「Too far away」である。
水越恵子の「Too far away」との出合いはラジオから流れて来た谷村新司の「Far away」からだった。谷村新司が優しい声で「ファーラ ウェイ、ファーラ ウェイ 君への道は……」と連呼するだが、このフレーズが耳について離れなくなった。「Far away」は〝遠く離れた〟を意味するが、主人公の〝僕〟に愛される女性は何て幸せなのだろうとしみじみと思ったものだ。その時パーソナリティのお姉さんが「この曲の原曲は、水越恵子さんが歌っているんですよ」と語っていた。
偶然にもレンタルビデオ屋で、水越の「Too far away」を見つけた私は、買ったばかりのウォークマンにカセットテープを入れた。少しハスキーで透明感があり、語りかけるような水越の歌唱は心に響いてきて、込み上げてくる涙をどうすることもできなくなってしまった。歌詞カードを読みこなしてまた涙が止まらなくなった。
「君を風に変えて 空に飾りたい 僕は星になって 君を守りたい……」と、主人公の〝僕〟は、「星」や「空」「風」に亡くした恋人を偲ばせている究極のラブソングだと心を打たれたのである。解説を読むと、「Too far away」(作詞・作曲 伊藤薫、編曲・大村雅則)は、アルバム「Aquarius(アクエリウス)」(79)の収録曲から、86年5月1日にシングルカットされたものだった。