24.09.12 update

谷村新司、堀内孝雄、元モーニング娘の安倍なつみ、やしきたかじん 、皆がカヴァーしたくなる泣ける歌、水越恵子の「Too far away」

 水越恵子は山梨県の生まれで、高校時代はバンド活動をしていた。卒業後テレビ局と信用金庫で短いOL生活を送っている。信用金庫で働いていたとき、テレビでオーディション番組「スター誕生」の募集を知ると興味半分で出場を決めた。ギター一本で「想い出のグリーン・グラス」を歌い本選に進んだがそこには15歳の岩崎宏美らがいた。20歳の水越に審査員の都倉俊一は、「きみは、ニューミュージックというか、フォーク系でやればいいんじゃないか」と言われ、落選だった。ところが、その放送をみていたサン・ミュージックの担当者から連絡があり、タレントスクールに入り芸能活動を始めることになった。

 そして75年9月に女性デュオユニット「姫だるま」でデビュー。テイチクからシングル2枚を出したが全く話題にならず、辞めようかと迷っていたとき、勧められたテレビ番組「8時の空」のオーディションに合格。番組ではのちに「ビューティフル・サンデー」を歌った田中星児とデュエットし、歌のお姉さんとして出演することになった。その後78年6月に「しあわせをありがとう」(作詞・作曲 伊藤薫、編曲・佐藤準)でソロデビューしたのである。シングル3枚目の「ほほにキスして」(79年7月、作詞・作曲 伊藤薫、編曲・佐藤準)は、悲しい別れの曲なのに春風のように心地良く、オリコン最高位33位までいった。それからはシンガーソングライターとしての活動が多くなり、歌手としては「水越けいこ」と表記をするようになったようだ。

 水越へ楽曲提供が多い伊藤薫についても触れておきたい。伊藤はフォークデュオとしてスタートしたシンガーだった。その後水越のバックギタリストとして活躍後、作詞作曲家として活動を始めた。水越のデビュー曲「しあわせをありがとう」「めぐり逢いすれ違い」「ほほにキスして」「Too far away」などをはじめ多くの人に楽曲を提供しているが、特筆したいのは台湾出身の歌手・欧陽菲菲の「ラブ・イズ・オーバー」(79年7月1日リリース)も伊藤薫の作品である。ロングランヒットのこの曲は、当時、ディスコブームだったこともあり「うわさのディスコ・クイーン」がA面で、B面の曲だった。ところが歌が好きな六本木や西麻布のクラブのママたちの口コミで次第に広がり、発表から4年後にオリコンチャート入りをする。その間にはB面からA面にした盤もでき、香港や台湾でもヒットした。今でもカラオケで親しまれている曲だ。

 伊藤薫も「Too far away」については特に思い入れが強かったようで、85年に「君への道」のタイトルでシングルをリリース。水越のアルバムからのシングルカットより少し早かった。その後、谷村新司が88年に「Far away」に変えてカヴァーし、多くの人に認知される曲になった。アリスのメンバーの堀内孝雄も、関西の視聴率男と言われ、司会者としても活躍したやしきたかじんも「Too far away」をカヴァーしている。さらに、元モーニング娘の安倍なつみもソロになって「Too far away~女のこころ~」をリリース、つんくのプロデュースで、オリコンチャート最高位15位を記録。それまでとは違う世代にも拡がっていった。谷村と水越のデュエットもリリースされている。

 このように「Too far away」は大ヒットこそしなかったけれど、多くの歌手にカヴァーされている隠れた名曲であることは間違いない。パソコンで音楽を聴くことができる便利な時代になった。アクセスしてみると、水越恵子の「Too far away」は何百万回と再生され、「亡くなった愛しい人を想いながら聴いています。癒されます」といったたくさんのコメントが寄せられている。哀しいときは哀しい曲に浸って思いっきり涙することで少し前に進めることもある。「Too far Away」は長きに亘り、私たちの心を癒してくれている。そしてこれからも歌い継がれることだろう。

文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫

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