25.08.07 update

夏だ! 海だ! 若大将の季節! 若大将といえばこの曲「ぼかぁ幸せだなぁ」のセリフも一世を風靡したエバーグリーンのラブソング 加山雄三「君といつまでも」


 この人と言えばこの曲という、究極の一曲を持っている幸せな歌手がいる。舟木一夫の「高校三年生」、いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」、坂本九の「上を向いて歩こう」などは、時代を超えて歌い継がれるまさしくそんな歌だ。西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」や橋幸夫と吉永小百合のデュエット曲「いつでも夢を」も歌手名と同時にその曲のタイトルが思い出される。そして、加山雄三の「君といつまでも」もまた、ラブソングの決定版として究極と言える一曲に数えることができるだろう。

 加山雄三といえば、戦前戦後を通じて美男子の代表格のような俳優の上原謙を父に、同じく俳優の小桜葉子を母に持つ二世俳優であり、母方の高祖父は明治の元勲・岩倉具視という家系に生まれ、慶應義塾大学卒業というスマートなイメージ。湘南の茅ケ崎育ちで、スキー、サーフィンをはじめスポーツ万能、ギター、ピアノ、ウクレレと楽器も得意で、ピアノコンチェルトを作曲するほどの音楽の才にも恵まれ、画も描けば、料理をさせれば玄人はだしの腕前で、船の設計までしてしまう。そして〝カッコいい〟という表現がピッタリの容姿で、主演した映画『若大将シリーズ』の主人公・田沼雄一そのもので、男たちが憧れる存在だ。実際、南こうせつ、谷村新司、さだまさし、THE ALFEEのメンバー、桑田佳祐ら、多くのミュージシャンたちからも憧れの兄貴として慕われている。ぼくも小学生のころ、若大将映画の封切日には必ず父親に映画館に連れていってもらうほど加山雄三は輝いていた。スポーツ万能だが、スポーツで汗を流せばスッキリというような単純なものではなく、たとえば星を見つめて詩作するようなロマンチストの面も、そして理系の知力と文系の感性とを併せ持つ人物だと、加山雄三から感じ取っている。

 
 慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後の1960年に東宝に入社しているが、入社動機は映画で一旗揚げて船の資金を調達できればというもので、会社員として映画界に就職する感覚で東宝に入社したのだ。入社の年に『男対男』で映画デビューを果たした。三船敏郎主演、池部良、志村喬、白川由美らの共演で谷口千吉がメガホンをとっている。また同年の岡本喜八監督『独立愚連隊西へ』では、2作目にしてはやくも主役に抜擢されている。西部劇テイストのアクション・コメディともいうべき味わいの作品だった。

 映画俳優としては、そのほかにも黒澤明監督『椿三十郎』や『赤ひげ』、成瀬巳喜男監督作で高峰秀子と共演の『乱れる』、司葉子と共演の『乱れ雲』、森谷司郎監督、高倉健主演の『八甲田山』など、巨匠と言われる監督の作品にも出演している。黒澤監督は加山の自宅を訪れた折に加山がふるまう手料理をいつも喜んでいて、加山をとても可愛がっていたというのは有名な話である。

 また、東宝スタア総出演による稲垣浩監督の『忠臣蔵 花の巻・雪の巻』では浅野内匠頭を演じており、堀川弘通監督の『狙撃』では浅丘ルリ子、森雅之らと共演し、若大将のイメージを覆すようなニヒルな殺し屋を演じた。浅丘や森の演技が高く評価されたのに対して、加山への評価は低かったが、浅丘は「加山さんがとてもカッコよかった」と絶賛している。61年には岩下志麻、田宮二郎、三田佳子、山﨑努、吉永小百合とともにエランドール賞新人賞を獲得した。

 映画『若大将シリーズ』は、61年に第1作の『大学の若大将』が公開され、81年の『帰ってきた若大将』まで全17本が制作された東宝の人気シリーズ。水泳、ボクシング、ヨット、アメリカン・フットボール、スキー、サッカー、フェンシングなどスポーツ万能で、気っぷがよく面倒見もいい大学生の若大将は加山雄三そのものに映った。第12作の『フレッシュマン若大将』からは、大学生からサラリーマンに設定も変えられ、マドンナもそれまでの星由里子(澄ちゃん)から酒井和歌子(節ちゃん)にバトンタッチされた。

「君といつまでも」は、シリーズ6作目『エレキの若大将』の挿入歌として披露される。若大将が「澄ちゃんのために歌を作ったんだ」と澄ちゃんに歌って聴かせるシーンで、澄ちゃんは初めて聴いたはずなのに2コーラス目をなんとデュエットするのだ。違和感を覚えた加山が指摘するも、「映画だからいいんだ」と押し切られ、ロマンチックなシーンなのに、加山はどこか仏頂面で歌っている、というエピソードも有名だ。

 
 映画俳優として人気を博していた加山雄三は、日本におけるシンガーソングライターの草分け的存在でもある。日本で初めて多重録音を手がけたことでも知られている。ソングライターとしてのペンネーム弾厚作は、加山が敬愛する作曲家の團伊玖磨と山田耕筰を合わせたものであることも周知のとおり。


「君といつまでも」をはじめ、「恋は紅いバラ」「夜空の星」「蒼い星くず」「夕陽は赤く」「お嫁においで」「霧雨の舗道」「夜空を仰いで」「旅人よ」「別れたあの人」「幻のアマリリア」「ある日渚に」「いい娘だから」「大空の彼方」「美しいヴィーナス」「ぼくの妹に」「海 その愛」などなど、ふと思い浮かべるだけでも多くのヒット曲をうんだ。作曲はもちろん、「夜空を仰いで」と「ある日渚に」は作詞も手がけており、それ以外の作詞は岩谷時子で、作詞・岩谷時子、作曲・弾厚作の作品は149作にのぼるという。

1 2

新着記事

  • 2025.12.05
    第31回【私を映画に連れてって!】野田秀樹、鴻上尚...

    文=河井真也

  • 2025.12.04
    日本男子バレーのスタープレーヤー、石川祐希選手の活...

    石川祐希選手の睡眠の秘密

  • 2025.12.04
    森美術館が凄いことになっている!現代アートの21組...

    12月3日~3月29日

  • 2025.12.02
    一見の価値あり、スイス人写真家が撮った占領下の日本...

    12月5日~3月3日

  • 2025.12.01
    【コモレバWEBマガジン・読者参加イベント】『私を...

    2026年1月23日(金)

  • 2025.12.01
    第38回【キジュを超えて】今、会いたい人─萩原 朔...

    文=萩原朔美

  • 2025.11.28
    今年の冬の思い出づくりは「箱根で過ごす」、いつもよ...

    冬の箱根のお楽しみ

  • 2025.11.28
    世界の玄関というべき「成田空港の京成」と「羽田空港...

    12月1日~3月1日

  • 2025.11.28
    第17回『東宝映画スタア☆パレード』岡田茉莉子&有...

    文=高田雅彦

  • 2025.11.27
    岩下志麻、周防正行、草刈民代、是枝裕和ら豪華ゲスト...

    12月14日、15日

映画は死なず

特集 special feature  »

<特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

特集 <特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

特集 松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!