22.07.27 update

夏目雅子が三蔵法師を演じた「西遊記」の「ガンダーラ」は淡い恋の想い出

アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。
お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。
1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。
ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介する。


 日曜日の夜8時は、家族そろって「西遊記」をみるのが、お楽しみだった。チャンネル権があるのは父で、この時間帯は決まって大河ドラマだったけれど、「西遊記」の放送の時は譲ってくれた。というのも、翌朝学校へ行って友人との会話は、「きのう、みた?」から始まる。みていないと会話についていけないのだ。

「お願い、西遊記みようよ」と、しぶる父を説得した。でも一番笑っていたのは父ではなかっただろうか。

 ここでいう「西遊記」は、1978年版で、孫悟空に堺正章、三蔵法師は夏目雅子、沙悟浄は岸部シロー、猪八戒は西田敏行、太宗皇帝は中村敦夫、釈迦如来を高峰三枝子が演じた。天竺へ向かう道中に出没する妖怪を倒し、妖怪の被害に苦しむ人々を御仏の心で癒す凛々しい夏目雅子(当時20歳だった)。堺、岸部、西田の掛け合いは、引き込まれる面白さがあった。

 ドラマもユニークだったが、私の心に沁みこんできたのはゴダイゴが歌う、エンディングの「ガンダーラ」だった。オープニングの「モンキー・マジック」は、弾むようなリズムで高揚感があったが、エンディングの「ガンダーラ」は、異国情緒あふれるエキゾチックな歌詞で、「ガンダーラ、ガンダーラ」と連呼されると、夢の国「ガンダーラ」に一緒に行けるような気になってくるのだった。そのうちに私にとっての夢の国は、「東京」で、ヴォーカルのタケカワユキヒデさんに会うことが、私の中のユートピアになったのである。今でいう〝推し活〟の始まりである。

イラスト:山﨑杉夫

 最近になって、『ミッキー吉野の人生(たび)の友だち』という本が目に入り、早速読んでみた。そこには、「ガンダーラ」がヒットした秘密なども明かされていた。ミッキー吉野は弱冠16歳にして「ゴールデン・カップス」に加入し、天才少年キーボーディストとして、様々なジャンルのアーティストたちとセッションし、レコーディングに参加していた。

 その後、バンド「ミッキー吉野グループ」を結成するが、70年代は、歌謡曲やフォークソングが全盛の時代。泣かず飛ばずのミッキー吉野グループとソロでやっていたタケカワユキヒデは、「ヒット曲を作って、ガツンと行こう!」と意気投合し、1976年「ゴダイゴ」が誕生した。しかし、なかなかヒット曲に恵まれない。そこでミッキー吉野は発想の転換をした。「想い出の渚」や「長い髪の少女」、海外の「夢のカリフォルニア」など流行った曲のイントロは必ず12弦ギターのサウンドを使っていた。12弦ギターにはヒットを生むマジックがあり、それを「ガンダーラ」に注ぎ込んだ。メンバーに「ダサいフレーズをカッコ良く演奏するんだ」と説得し、「何としてでもヒットを出す」という執念で派手なアレンジもした。

「ガンダーラ」のレコードジャケットも面白い。ミッキー吉野が猪八戒、タケカワユキヒデが沙悟浄、浅野 孝已が三蔵法師、トミー・スナイダーが孫悟空、スティーブ・フォックスが妖怪に扮した。音楽番組にも積極的に出演した。ユニセフ国際児童年協賛曲「ビューティフル・ネーム」、映画の主題曲にもなった「銀河鉄道999」、「西遊記Ⅱ」のエンディング「ホーリー&ブライト」とヒットを連発した。

 1980年2月にはネパールのカトマンズでコンサートを行い6万人の観衆が押し寄せ、ゴダイゴはネパールで伝説のグループとなった。同年10月ロサンゼルスで、市政200年祭のコンサートに参加、その11日後には中国の天津でロックバンドとして初めて中国コンサートを行った。人気を博したゴダイゴだったが、スティーブが宣教師なるため脱退し、人気に陰りが出てきて、ついに85年解散となった。

 田舎の少女は、東京に辿り着き、従姉が入学祝いにゴダイゴのコンサートに連れて行ってくれた。会場に入るとステージは遠かったが、生で聴く「ガンダーラ」に胸をときめかせた。聴いていると、ドラマをみて笑っている父の顔や東京で一人暮らしの娘を心配する母の顔が浮かび、目の前が霞んで見えなくなってしまった。

 それから一度、都電に初めて乗り、タケカワさんの通った東京外国語大学のキャンパスを歩いてみた。それを最後に〝推し活〟を終えた。

 山上路夫、奈良橋陽子作詞、タケカワユキヒデ作曲、ミッキー吉野編曲で生まれたゴダイゴの一連のヒット曲は40年以上経っても色あせない。

文=黒澤百々子

映画は死なず

新着記事

  • 2024.04.17
    国の「重要文化的景観」に選定された<葛飾柴又>の知...

    京成電車下町さんぽ<1>

  • 2024.04.17
    渡り鳥のように、4箇所をぐるぐる ─萩原 朔美 ...

    第12回 キジュからの現場報告

  • 2024.04.17
    利発で、正義感が強く、潔癖で、ちょっぴり生意気で、...

    昭和30年後半の大映映画の青春スター

  • 2024.04.11
    相模原出身のロックバンド (Alexandros ...

    相模大野駅の列車接近メロディ

  • 2024.04.11
    下町の太陽、庶民派女優といわれながら都会の大人の女...

    150万枚のミリオンセラーを記録

  • 2024.04.09
    一日限りの『男はつらいよ』シネマ・コンサート開催!...

    6月29日(土)開催

  • 2024.04.08
    六本木ヒルズ・東京シティビュー 「創刊50周年記念...

    応募〆切:5月17日(金)

  • 2024.04.05
    俳優座の仲間たちから〝モヤ〟と呼ばれ、映画舞台の両...

    4期生とし養成所に入所

  • 2024.04.05
    本年度読売演劇大賞の大賞受賞後、初となる藤田俊太郎...

    東京公演:4月7日(日)開幕

  • 2024.04.04
    最高に幸せな7日間のラブストーリー『ハピネス』舞台...

    応募〆切:4月22日(月)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

new ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

「箱根スイーツコレクション 2024」開催中 4月22日(月)まで キャンペーンも実施中

箱根 「箱根スイーツコレクション 2024」開...

Instagramをフォローして、素敵な賞品をゲットしよう

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!