アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。
お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。
1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。
ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介する。
立秋が過ぎて雨上がりの夕暮れ時、涼風がそっと吹き抜け、季節が変わる瞬間を肌で感じるときがある。何とも言えない寂寥感とともに、秋がそこまで来ていることに気づく。そんなときいつの間にか口ずさんでいるのが、オフコースの「秋の気配」である。
「秋の気配」は1977年(昭和52)8月5日リリースの11枚目のシングルである。大ヒットした「さよなら」はレコードを買って聴いていたが、それ以前の曲は馴染みがなかった。
オフコースの曲やメンバーのことは、大学に入ってから同級生のお兄さんにたくさんのことを教えてもらった。北海道旭川出身の彼女とは同じ地方出身という気安さもあり、すぐ仲良しになった。ドイツ語の授業が一緒で、終えると彼女の家に遊びに行く。兄姉と同居する彼女の家には和洋楽たくさんのレコードがあった。特にオフコースファンのお兄さんのコレクションは充実していた。私の知っている「さよなら」以外の一連のシングルや『ワインの匂い』、『Three and Two』などのアルバムも並んでいた。都立大学駅にあるサンジェルマンでお気に入りのパンを買い、彼女の部屋でレコード鑑賞をするのが一週間のご褒美になっていた。
「秋の気配」は男性の心が離れていく切ない恋愛を歌っているけれど、心地よいハーモニーとアコースティックギターの音色が耳から離れなくなってしまった。そしてどうしてもこの曲の中に出てくる〝港が見おろせる小高い公園〟へ行きたくなった。お兄さんに地図を書いてもらい彼女と二人出かけた。京浜東北線の石川町で下車し、元町商店街を抜けて外人墓地の急な坂を上り、少し行くと眼下に横浜港が広がる。その光景に感動した私たちは、貨物船がゆっくり進むのをベンチに座ってずっと眺めていた。あれから何度訪れたことだろう。