22.12.01 update

「香港から来た真珠」といわれたアグネス・チャンが歌った「草原の輝き」

 アグネス・チャンは、14歳のとき香港で歌手デビューしたが、来日前アジア圏ではすでに知名度があった。香港では自身の冠番組「アグネス・チャンショー」があるほどだった。番組で共演した作曲家の平尾昌晃の猛烈なスカウトで日本デビューしたのは17歳。「草原の輝き」は、シングル3枚目で、作詞・安井かずみ、作曲・平尾昌晃、編曲・馬飼野俊一というヒットメーカーたちによるもので、73年7月25日にリリースされた。その後も「小さな恋の物語」「星に願いを」「ポケットいっぱいの秘密」、荒井由実作詞・作曲による「白いくつ下は似合わない」など、ヒット曲がある。「草原の輝き」は、74年の春の選抜高校野球大会の入場行進曲にも選ばれた。

 しかしデビュー後1、2年の活躍は、アグネス・チャンにとって序章に過ぎない。デビューから1年半ほど過ぎた74年に上智大学の国際学部に入学する。アイドルとしてすでに人気を博していた歌手が、4年制大学に入学する例などほとんどなかった。その後カナダ一の名門トロント大学に編入、結婚や出産を経験した後の89年には世界的な名門校であるスタンフォード大学教育学部博士課程に留学し、94年、40歳を目前に博士号を授与している。その間には「子連れ出勤」の是非をめぐって「アグネス論争」も巻き起こしたが、そんな批判も何のその。逞しい母・アグネスは、三人の息子たちをスタンフォード大学へと導いた。『スタンフォード大に三人の息子を合格させた教育法』を2015年に出版、世間をあっと驚かせた。ところが、三男がまだ11歳のとき乳がんの宣告を受ける。アグネスはそれをも克服し「ピンクリボン運動」にも参加。さらに日本ユニセフ協会大使として、ソマリアやスーダンなど、紛争国や政情不安の国々へ視察に赴く。そのたびに、遺書を書いたという。恐るべし、アグネス・チャンの半生記である。着実にネオウーマン(新しい女性)として輝かしい軌跡を残してきたのである。

 そして2022年はデビュー50周年だということ改めて知った。記念コンサート「平和の歌声よ、届け!」では、「今日生きているのは恵みです。出会ったみんなのおかげです。今日は一番若い、笑顔をばらまきます」と語り、22曲を熱唱した。

 デビュー曲「ひなげしの花」を歌う50年前のアグネス・チャンをYouTubeでみたが、長いストレートの髪をゆらしながら、ギターを抱えて歌っている姿は可愛らしく、健気だ。50年後の今、歌う姿は当時と変わりない。15年前の大晦日に亡くなった父であるが、今のアグネス・チャンをみたら、またもらい泣きしているのではないか。命日が近づくと、あの日の父の横顔が鮮明によみがえるのである。

文=黒澤百々子  

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!