23.12.21 update

〝創立80周年記念スペシャルシリーズ〟仲代達矢、平幹二朗、市原悦子、加藤剛、栗原小巻ら名優を輩出した演劇集団「劇団俳優座」100周年への大いなる助走

◆劇団、俳優養成所、劇場の三本柱◆

 これらの公演活動に加え、49年には演劇研究所付属俳優養成所を開設して若手演劇人の育成にも本格的に着手し、16期生が最後となった67年の閉鎖までに約600人を演劇界に送り出した。さらに、演劇研究所の建設のために確保していた六本木の土地を使って、活動の拠点となる劇場建設にも積極的に打って出る。50年代は日本映画の黄金期でもあり、プロの演劇人は映画界から引っ張りだこで、東野や小沢、千田をはじめ劇団員はギャラの70%を収めて劇場建設に邁進した。その苦労もあって54年4月に客席数400の俳優座劇場が誕生。現代劇を上演する自前の専用劇場の誕生は、45年の東京大空襲で焼失した築地小劇場以来のことだった。こけら落とし公演はギリシャ悲劇『女の平和』を青山の演出で上演し、100人近い出演者が舞台に立って賑やかな船出を飾った。

▲左:『タルチュフ』を演じる千田是也フランスの劇作家モリエールの戯曲『タルチュフ』で、敬虔なキリスト教信者のふりをした偽善者タルチュフを演じた1957年の千田是也。千田は44年2月10に東山千栄子、東野英治郎、小沢栄太郎ら同人と劇団俳優座を創立し、49年には俳優座養成所を開校した。初代俳優座代表で、94年に亡くなるまで同座代表を務めた。新劇界に与えた千田の功績は大きく、西欧の近代劇や古典劇の基盤を作るとともに、日本の現代演劇において、最初の実践的な演技論でリアリズム演技の教科書と言われる『近代俳優術』を著し、近代的な演技術・俳優術を理論化した。40年代から70年代ころまで『善魔』『恋人』『慟哭』『地獄門』『青春怪談』『陽のあたる坂道』、東映の『宮本武蔵』シリーズなど約100本の映画にも出演している。『タルチュフ』は劇作家の田中千禾夫の演出で、若き仲代達矢も二枚目のヴァレール役で出演している。後に仲代が創設した無名塾の舞台で『ぺてん師 タルチュフ』に主演している。
▲右:『桜の園』を演じる東山千栄子 日本新劇俳優協会初代会長を務めた東山千栄子。チェーホフの『桜の園』のラネーフスカヤ夫人は当たり役で、1927年から63年まで演じ続けた。52年には、同役で芸術選奨文部大臣賞を受賞している。そのほかにも、『フィガロの結婚』の伯爵夫人、『女の平和』のリューシストラテー、森本薫脚色『陳夫人』などの代表作がある。また、小津安二郎監督『東京物語』は映画の代表作であり、『女の園』『紀ノ川』など木下惠介監督映画の常連出演者でもあった。吉村公三郎監督、長谷川一夫主演の映画『源氏物語』では、敵役的な存在の弘徽殿女御を演じていた。映画、テレビドラマの映像作品でも名を残す女優である。

 劇団、養成所、劇場。創立からわずか10年で三本柱を手にした俳優座の歩みは、戦後の現代劇の歩みそのもので、千田をはじめ、青山、小沢、田中千禾夫らそうそうたる演出家の下、俳優の個性を生かした舞台表現で現代演劇の基礎を固め、新時代の到来に若者が呼応する形で人気俳優も次々と生まれていく。田中千禾夫『千鳥』(59)、鶴屋南北『東海道四谷怪談』(64)、ゲーテ『ファウスト』(65)などの平幹二朗、安部公房『幽霊はここにいる』(58)や『巨人伝説』(60)の田中邦衛、シェイクスピア『十二夜』(59)、トルストイ『アンナ・カレーニナ』(60)の河内桃子、ブレヒト『セチュアンの善人』(60)や『三文オペラ』(62)の市原悦子、小山祐士『黄色い波』(61)、チェーホフ『かもめ』(74)の中野誠也、シェイクスピア『ハムレット』(64)、『オセロ』(70)、『リチャード三世』(74)で仲代達矢が躍動したほか、シェイクスピア『ハムレット』(71)、トルストイ『戦争と平和』(73)の山本圭、田中千禾夫『マリアの首』(73)の佐藤オリエ、シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』(77)、イプセン『野鴨』(78)の加藤剛、チェーホフ『三人姉妹』(68)、ブレヒト『コーカサスの白墨の輪』(80)の栗原小巻、シラー『メアリ・スチュアート』(83)の川口敦子、と枚挙にいとまがない。

▲新劇出身の映画俳優の代表格であり、300本以上の映画に出演し、特に憎々しい悪役の演技で定評があった、日本映画黄金期に欠かせない俳優の小沢栄太郎。1946年木下惠介監督映画『大曾根家の朝』では第1回毎日映画コンクールで演技賞を受賞している。ちなみに東野英治郎も出演していた。『雨月物語』『白い巨塔』『華麗なる一族』『不毛地帯』『悪党』『犬神家の一族』といった映画での演技も印象深い。また、NHK大河ドラマ「新・平家物語」での信西、「元禄太平記」での吉良上野介などの憎々しい役は、余人をもって代えがたい小沢栄太郎の真骨頂といった感じで、今でもしっかりと記憶に刻まれている。眞船豊作・千田是也演出の84年の舞台『遁走譜』では紀伊國屋演劇賞・個人賞を受賞した。『遁走譜』は、40年に新協劇団で初演された、千田是也が初めて演出した眞船作品だった。それ以来、多くの眞船作品が千田の演出により紹介され、俳優座の大きな財産となっている。84年の上演は俳優座としては58年以来の上演で、初演同様、小沢栄太郎が主演を務めた俳優座創立40周年記念公演だった。小沢は65年に仲代達矢主役の『ハムレット』ではクローディアスを演じていたのも記憶に残る。51年、60年、63年の『桜の園』ではロパーピンを演じている。

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