23.12.21 update

〝創立80周年記念スペシャルシリーズ〟仲代達矢、平幹二朗、市原悦子、加藤剛、栗原小巻ら名優を輩出した演劇集団「劇団俳優座」100周年への大いなる助走

第1幕

「俳優座」の名前に込められた、
近代俳優術の確立という志
文=杉山 弘
企画協力・写真&画像提供:劇団俳優座

1944年2月10日、演劇文化の発展と普及を志す同人10名によって設立した劇団俳優座。
戦後の文化的混乱期にいち早く演劇復興の旗頭として活動を開始し
2024年2月10日に創立80周年を迎える。
創立記念行事として、〝伝統と革新の共生〟を基本理念とした芝居の上演がすでに始まっている。

演劇研究所付属俳優養成所を開設し若手演劇人の育成に着手し
活動の拠点となる劇場建設にも積極的に取り組み、
俳優の個性を生かした舞台表現で現代演劇の基礎を固めてきた俳優座。
戦後演劇史に輝かしい成果を残してきた劇団の80年の歴史を紐解きながら
さらに、その先へと向かう俳優座の今を3回シリーズでご紹介する。
第2弾では共に在団60年を超える川口敦子さんと中野誠也さんのインタビュー、
第3弾では91歳の現在も現役として舞台に立つ岩崎加根子さんのインタビューで
演劇、俳優座へのそれぞれの熱い思いもご紹介する。


 劇団俳優座は2024年2月に創立80周年を迎える。戦争と思想弾圧で傷ついた演劇の復興に大きな役割を果たし、数多くの俳優や劇作家、演出家を輩出した歴史ある老舗劇団の一つであり、重厚な社会派作品をはじめ、生活感あふれる軽妙な喜劇から前衛的な実験作まで、現代劇上演の先頭に立って演劇界を牽引するリーダー的な存在として戦後演劇史に輝かしい成果を残してきた。

▲『三文オペラ』『肝っ玉おっ母とその子どもたち』などと並ぶベルトルト・ブレストの代表作と言われる寓話劇『セツアンの善人』。1986年には、千田是也演出、栗原小巻主演で上演された。89年にも同コンビで、劇団俳優座創立45周年記念として上演されている。また、61年には『セチュアンの善人』のタイトルで、市原悦子、井川比佐志、田中邦衛らの出演で上演されている。演出は小沢栄太郎だった。栗原小巻は、63年に俳優座養成所15期生として入所し、68年に日生劇場でのチェーホフ作『三人姉妹』のイリーナ役で初舞台を踏んだ。同期には、太地喜和子、原田芳雄、地井武男、夏八木勲、林隆三、小野武彦、村井國夫、前田吟らがおり、〝花の15期生〟と呼ばれている。71年には『そよそよ族の叛乱』で紀伊國屋演劇賞・個人賞を受賞し、2002年には『肝っ玉おっ母とその子どもたち』にも主演している。2013年に、50年所属した劇団俳優座を退団した。
 

◆受け継いだ築地小劇場のDNA◆

 日本演劇史の視点から見ると、江戸時代に大衆芸術として発展したものの、明治期になっても芝居と言えば「歌舞伎」を指していた。文明開化と共に西欧から流入した近代演劇の影響を受けた「新劇」が大きな花を咲かせるのは、1924(大正13)年に誕生した築地小劇場以降になる。築地小劇場では小山内薫や土方与志を中心に、戯曲を尊重し、調和を重視したアンサンブルの芝居の上演に主眼を置き、29年の解散までの6年間で84回計117本に及ぶ国内外の現代劇を上演している。この築地小劇場のDNAを色濃く受け継いだのが、戦時中に結成された俳優座だ。10人の創立メンバーのうち、青山杉作は築地小劇場で22本を演出し、研究生一期生だった千田是也は第1回公演『海戦』(24)から舞台に立ち、二期生の東山千栄子、岸輝子、村瀬幸子もメンバーに名を連ねている。千田は「俳優にとって納得のいく仕方で芝居を上演する機会を持ちたい」と近代俳優術の確立の必要性を説き、リアリズム演劇を基礎から作り直そうと志した。その思いがそのまま劇団名となり、劇団の方向性ともなった。

▲劇団俳優座創立10周年事業として、1954年4月20日に開場した俳優座劇場。千田是也、小沢栄太郎、東野英治郎、東山千栄子ら同人たちが、新劇のための劇場を自らの手で創りたいという理想を抱いて設立した。こけら落としは、劇団俳優座第26回公演の、アリストパネス作『女の平和』と、マルシャーク作こども劇場『森は生きている』だった。80年に改築され、9階建てビルに300席の客席を併設する形になった。施設の老朽化が進むなどして、2025年4月末で閉館の予定で、70年の劇場の歴史に幕を下ろすことになる。全席どこからでも、舞台上の演者の爪先まで見られる劇場である。

 本格的な公演活動は終戦直後の1946年3月で、第1回公演ゴーゴリ『検察官』では青山が演出し、小沢栄太郎と東山が市長夫妻を演じている。眞船豊『中橋公館』(46)や『孤雁』(49)に東野英治郎が主演し、久保栄『火山灰地(第一部)』(48)、モリエール『女房学校』(50)、ストリンドベリ『令嬢ジュリー』『白鳥姫』(同)、チェーホフ『桜の園』(51)、シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』(52)などの創作劇、翻訳劇に、創立メンバーを中心に、信欣三、永井智雄、浜田寅彦、木村功、松本克平、中村美代子、大塚道子、東恵美子、初井言栄、岩崎加根子、関弘子らが舞台に立った。本公演のほか、地方公演、創作劇研究会、こども劇場を企画し、51年には15公演444回で観客数34万8557人の記録も残っている。

▲1954年1月、完成間近の俳優座劇場に、座員たちがそろった。いずれの顔も自分たちの劇場を持てる喜びですてきな笑顔にあふれている。前列着席の右から、創立メンバーの青山杉作、東山千栄子、岸輝子、(一人おいて)千田是也。東山の後方に岩崎加根子、その2列右後方には、95歳の現在も現役として舞台に立つ中村たつ2列左後方には映画『男はつらいよ』シリーズでもおなじみの杉山徳子(後にとく子)、中村たつの右方向には、小林正樹監督映画『壁あつき部屋』をはじめ、多くの映画、テレビドラマでも活躍した浜田寅彦の顔も見える。千田の2列後方は菅井きんだろうか。写真上部の組まれた鉄骨の中段、左から2人目の東野英治郎と、その隣小沢栄太郎は、「オレたちの家ができた」と歓喜したと聞く。

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