◆80周年「伝統と革新の共生」を理念に◆
その一方で、巨大になった劇団ならではの悩みも多く、俳優座劇場や地方での公演には限りがあり、なかなか活躍の場を得られない若い演劇人たちは俳優座を飛び出し、新しい劇団を旗揚げしていく。青年座をはじめ、仲間、新人会(現:朋友)、三期会(同:東京演劇アンサンブル)などが誕生したほか、佐藤信や斉藤憐、串田和美、吉田日出子らの養成所出身者で結成された自由劇場は「アングラ演劇」と呼ばれる新しい演劇運動を起こしていく。その中で94年の「座・新劇」公演が忘れられない。木下順二『風浪』、秋元松代『村岡伊平治伝』、宮本研『美しきものの伝説』と、新劇の財産的演目3本を5劇団が合同して上演した。骨太のドラマ、簡潔で無駄のない美しいせりふ、エネルギッシュな俳優の演技は、「これぞ、新劇」の力量を示す濃い内容で、当時のトップランナーだった蜷川幸雄や野田秀樹が演出した舞台に勝るとも劣らない演劇の魅力を解き放った。
この94年には半世紀にわたって代表を務めた巨星・千田是也が他界する。若手演出家の伸び悩みや演劇の多様化で劇団は曲り角にたたされたが、本公演と並行して稽古場を使った「ラボ公演」で実験的な芝居を試み、演技研究生の募集を再開して活動を再活性化させた。今世紀に入り、演出の眞鍋卓嗣がトルストイの『ある馬の物語』(2011)や劇作家・横山拓也とコンビを組んだ『首のないカマキリ』(18)、『雉はじめて鳴く』(20)、『猫、獅子になる』(22)などで高い舞台成果を残したほか、俳優の森一が「修復的司法」を題材にしたオーストラリア演劇の『面と向かって』(21)、『対話』(23)を演出して新生面を切り開くなど、意欲的な創作劇、翻訳劇の上演で活気を取り戻し、2022年には第56回紀伊國屋演劇賞の団体賞受賞へと結びつけた。