25.08.20 update

筒美京平 生誕85周年企画 作曲家と編曲家の二刀流で大ヒット曲をかっ飛ばし続けた歌謡界の大谷翔平!

 時代は激変していた。

 1968年は学生運動が最も激しかった年だ。古い世代と新しい世代が世界中でせめぎあっていた。当時はカウンターカルチャーと呼ばれていた。と言っても大人たちから見れば「今時の若い者は」というしょうもない不良たちの遊びにしか見えなかっただろう。

 ヴィレッジ・シンガースにはそうした時代性が薄かった。オックスはそこを超えたフィクションのファンタジーのようだった。

 中世の王子様のようないで立ちでの5人組。それでいて歌っていたボーカルや演奏中のオルガンが失神してしまう。ロックコンサートだったら過激なロックバンドとして目をつけられそうな彼らが歌っていたのが「ガール・フレンド」や「ダンシング・セブンティーン」「スワンの涙」だった。

 オルガンを効果的に使った少女趣味な言葉と上品なメロデイーのロマンティシズム。泥臭さとは無縁な夢見心地のカタルシスは飽和状態でマンネリになっていたGSシーンに咲いた最後の花のようだった。

 GSは歌謡曲の形を変えた。

 ギターだけではなくドラムとベースが前面に出る。「ひとりGS」という言葉も生まれた。68年12月に出て筒美京平の最初のナンバーワンヒットとなったいしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」は代表的な曲だ。足取りが軽くなるような跳ねた8ビートと一体になった言葉の吹っ切れた心地よさはオックスにもなかった。

▲1968年12月25日リリースのいしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」。作詞は橋本淳で、橋本とのコンビ作は約550を数える。筒美京平の作曲では自身初のオリコンシングルチャート週間1位を獲得している。69年の日本レコード大賞で作曲賞を受賞。筒美作品ではシングル売上3位を記録。


 時代の変化を決定づけたのが71年に尾崎紀世彦が歌った「また逢う日まで」だったことは言うまでもない。

 何が決定的だったか。

 あのイントロである。

 それまでの歌謡曲の中で認知度が一番低かったのが「編曲」だろう。高らかに突き抜けてゆくホーンセクションが全てを変えた。「編曲」の重要さを証明したという意味でも歴史を変えた一曲だった。

▲1971年3月5日リリースの尾崎紀世彦「また逢う日まで」。作詞は阿久悠で、阿久とのコンビ作は約120曲で、作詞家として橋本淳、松本隆に次いで多い。筒美にとって初のレコード大賞受賞曲となった。71年のレコード大賞関連受賞曲関連では、新人賞南沙織「17才」(作詞は有馬三恵子)、作曲賞平山三紀「真夏の出来事」(作詞は橋本淳)、朝丘雪路「雨がやんだら」(作詞はなかにし礼)、歌唱賞渚ゆう子「さいはて慕情」(作詞は林春生)、大衆賞堺正章「さらば恋人」(作詞は北山修)と6曲が受賞曲となった。6曲すべて作詞家が異なるのも興味深い。6曲すべて編曲も担当している。オリコンシングルチャート1位で、筒美作品の売上でも4位に入る。


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