25.08.20 update

筒美京平 生誕85周年企画 作曲家と編曲家の二刀流で大ヒット曲をかっ飛ばし続けた歌謡界の大谷翔平!

シングルチャート一位を獲得した曲は生涯で39曲

 
 今思えば70年代は音楽が「敵味方」にならざるを得ない不幸な時代でもあった。

 僕はどっぷり「こっち側」だった。

 80年代の終わりにたった一度だけ実現したインタビューで吉田拓郎のことを訊いた時、彼は「自分には書けない曲だったので怖いと思った」と言った。

 あの時のうれしさと申しわけなさは今も忘れられない。

 シングルチャート一位を獲得した曲は69年に一位になった「ブルー・ライト・ヨコハマ」を皮切りに03年のTOKIOの「AMBITIOUS JAPAN」まで39曲。近藤真彦の11曲が最も多い。編曲のゴージャスさが今でも語り草になっているジュデイ・オングの「魅せられて」、5曲を送り込んでいる小泉今日子には永遠のアイドルソング「なんてったってアイドル」もある。

▲(左)1979年2月25日リリースのジュディ・オング「魅せられて」(作詞:阿木燿子)。オリコンシングルチャート1位の売れ行きで、筒美作曲のシングル売上でも1位を誇る大ヒット曲。79年の日本レコード大賞・大賞に輝き、筒美は2度目の大賞を受賞した。また、2年連続5度目となる作曲賞も受賞している。筒美は自身の曲の編曲もほとんどと言っていいほど手がけており、この曲もまた、編曲家としての筒美の才能が際立つ曲としても語られる。そしてレコード大賞を競った西城秀樹の「勇気があれば」も筒美の作曲だった。(右)1982年10月21日リリースの稲垣潤一「ドラマティック・レイン」(作詞:秋元康、編曲:船山基紀)は、オリコンシングルチャート8位のヒットだった。その後も稲垣潤一には「エスケイプ」「夏のクラクション」などの楽曲を提供している。80年代の筒美は81年、82年、83年、85年、87年に作曲家年間売上トップ1に輝いている。

 


 ちなみに筒美京平に代わって山下達郎が作曲した82年の近藤真彦の「ハイテイーン・ブギ」も一位になっている。彼が97年にデビューしたKinKi Kidsの「硝子の少年」を手掛ける時に「筒美さんだったらどういう曲を書くのか考えた」という発言が物語っていないだろうか。

▲1981年9月30日リリースの近藤真彦「ギンギラギンにさりげなく」(作詞:伊達歩、編曲:馬飼野康二)。マッチこと近藤真彦には80年のデビュー曲「スニーカーぶる~す」(作詞:松本隆、編曲:馬飼野康二、筒美のシングル売上第2位)はじめ、「ブルージーンズ メモリー」(作詞:松本隆、編曲:馬飼野康二)、「情熱✩熱風☽せれなーで」(作詞:伊達歩、編曲:大谷和夫)、「ふられてBANZAI」(作詞:松本隆、編曲:後藤次利)、「ホレたぜ!乾杯」(作詞:松本隆、編曲:後藤次利)などデビュー当時の多くの楽曲を提供し、ことごとくオリコンシングルチャート1位を獲得している。マッチは「ギンギラギンにさりげなく」で、81年日本レコード大賞・最優秀新人賞を受賞し、NHK紅白歌合戦にも初出場を果たした。同時期にはマッチと同じたのきんトリオの田原俊彦にも「君に薔薇薔薇…という感じ」「原宿キッス」などの楽曲を提供している。



 橋本淳、阿久悠、安井かずみ、千家和也、山上路夫、阿木燿子、松本隆、伊達歩、宮下智、三浦徳子、売野雅勇、康珍化、秋元康、ちあき哲也、森浩美、広瀬香美、川咲空、なかにし礼――。筒美京平作曲でシングルチャート一位を獲得した曲の作詞家である。

▲(左)1985年2月21日リリースの斉藤由貴の歌手デビュー曲「卒業」(作詞:松本隆、編曲:武部聡志)はオリコンシングルチャートでファースト・シングルながら6位にチャートインした。ちなみに、松田聖子も中森明菜もチャートインしたのはセカンド・シングルからだった。「卒業」は、斉藤由貴にとっても歌手としての代表曲であり、筒美や、松本隆の特集番組などが企画される折には、必ずと言っていいほど紹介される曲である。その後筒美、松本、武部により「初恋」「情熱」がリリースされている。(右)1985年11月21日リリースの小泉今日子「なんてったってアイドル」(作詞:秋元康、編曲:鷲巣詩郎)。数々のアイドルたちに楽曲を提供し、スターへと導いた筒美京平は、小泉今日子にも「真っ赤な女の子」「迷宮のアンドローラ」「ヤマトナデシコ七変化」「魔女」「夜明けのMEW」など小泉今日子の代表作ともいえる多くの楽曲を提供している。「なんてったってアイドル」もまた、オリコンシングルチャート1位を獲得している。


 曲が先であろうと詞が先にあろうとこれだけの作詞家と組んだ曲で一位を獲得する。

 二度と現れない史上最強の職業作曲家という以外に相応しい表現があるだろうか。



たけ ひでき
1946年、千葉県船橋市生まれ。69年、タウン誌のはしりだった「新宿 プレイマップ」創刊編集者を皮切りに「セイ!ヤン グ」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクショ ン作家、音楽番組パーソナリティとして活動中。『読むJ‐POP・1945~2004』『70年代ノート』『陽の当たる場所~浜田省吾ストーリー』『ラブソングス ユーミンとみゆきの愛のかたち』『いつも見ていた広島 小説吉田拓郎 ダウンタウンズ物語』『みんなCM音楽を歌っていた 大森昭男ともう一つのJ‐POP』『歌に恋して―評伝・岩谷時子物語』『風街とデラシネ・作詞家松本隆の50年』など多数の著書がある。日本のロックポップスを創成期から見続けている一人。






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