22.01.31 update

91歳の相撲記者・杉山邦博の秘蔵アルバム(中編)

◇世代交代という宿命

【写真は大関貴ノ花の最後の土俵となった昭和56年1月場所6日目、水をつける関脇千代の富士。昭和46年5月場所横綱大鵬を破り引退に追い込んだ貴ノ花は、大鵬から「後を頼むぞ」と後事を託された。この場所、関脇千代の富士は優勝し大関に昇進、横綱までまっしぐらに出世するが、貴ノ花の次男、貴乃花に敗れ引導を渡される。まさに宿命の世代交代の一場面である】

 そして、いよいよ時代は北の湖から千代の富士に移ります。昭和56年1月場所、関脇だった千代の富士は初日から快進撃を続け、北の湖との優勝決定戦で見事に上手投げを決め初優勝を飾ります。その年の1月場所は千代の富士があこがれていた大関貴ノ花が引退しました。

 私は実況で、「真っ赤に燃え続けた太陽が西の空に沈んで、いま、新しい命を得た朝日が、まさに昇ろうとしている。新しい時代の夜明けです」とアナウンスをしたのです。

3月場所に横綱輪島、大関増位山が続けて引退。56年は、大相撲の世代交代を象徴する年でした。千代の富士は、九重部屋十連覇など黄金時代を共に築いた弟弟子の保志(のちの北勝海)らと猛稽古を重ね地位を不動のものにしました。平成3年5月場所、十年も横綱を務め、引退をした時の記者会見が忘れられません。

「体力の限界! 気力もなくなり、引退することとなりました」と、千代の富士の気性の激しさと無念さを物語っています。父・貴ノ花を倒して引退を決意させた千代の富士は、その息子貴乃花に敗れて引導を渡されます。切ないような大相撲の世代交代の宿命を感じます。

 若・貴という兄弟フィーバーでまた相撲人気が一段と高まることとなります。「後編」の更新に続きます。

*「名場面、名勝負の土俵に人生あり」
杉山アナウンサーは、56歳でNHKを定年退職し、引き続きBSの大相撲放送のスタート時などでも実況を続け63歳まで40年余りにわたってマイクを前にした。昭和の大相撲から平成に入って間もなくの若・貴兄弟フィーバーも伝えてきたことになる。しかし、その後も花道横の定席から今日まで、忘れられない名勝負、名場面を見続けてきた。「抑制の美」を伝えるために。


すぎやま くにひろ 昭和5年、福岡県生まれ。昭和28年3月早稲田大学第一文学部を卒業し、NHKに入局。大学在学中には「早稲田大学アナウンス研究会」を創設した。名古屋、福岡、大阪、東京各放送局に勤務。入局以来大相撲、野球、オリンピックなど各スポーツ放送の実況アナウンサーとして活躍。大相撲は入局から一貫して担当した。昭和62年10月18日定年。NHK専門委員、BS放送にも携わる。現在、東京相撲記者クラブ会友、日本福祉大学生涯学習センター名誉センター長、同大学客員教授として週2回名古屋で講義を持つ。著書に『土俵一途に 心に残る名力士たち』(中日新聞社)、『土俵の真実』小林照幸氏と共著(文藝春秋)、『土俵の鬼 三代』、『兄弟横綱 若貴の心・技・体』(講談社)他。

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