今回のトップバッターは、そんな歌謡番組が人気だった時代にデビューした〝ヒロくん〟こと沖田浩之。昭和44年頃、東京・原宿の代々木公園横の日曜の歩行者天国。アラビアンナイトの世界を思わせる無国籍ふうの奇抜で派手なファッションで、ラジカセを大音量で鳴らしステップダンスを踊る若者集団が出現した。最盛期にはメンバーが2千人以上いたと言われる<竹の子族>である。彼らが着ていた衣装が、原宿の<ブティック竹の子>で購入されていたことが命名の由来の一つと言われている。彼らのダンスを観るため、毎週、多くの観衆が集まったことも話題だった。カセットから流れる音楽は、アラベスク、ノーランズ、ジンギスカン、ヴィレッジ・ピープル、ニュートン・ファミリーなど、昭和40年代後半から50年代前半にかけて日本でも人気を誇った、いわゆるキャンディ・ポップスだった。沖田浩之は、竹の子族から生まれたスターだった。
レコードデビュー以前、沖田浩之はドラマ「3年B組金八先生」の第2シリーズに、不良少年松浦悟役で出演し、注目された。第2シリーズといえば、「腐ったミカンの方程式」の回が話題になったシリーズである。そして、さらに話題を呼んだのが、昭和56年3月20日放送回「卒業式前の暴力 2」である。中島みゆきの「世情」が流れる中、松浦悟は同級生の加藤優と共に乗り込んだ荒谷二中の放送室に立てこもり、その後、学校側の依頼で突入した警察によって手錠をかけられ連行される。31.5パーセントの視聴率を獲得し、今でも語り継がれるシリーズ屈指の衝撃的なシーンだった。
放送日の翌日3月21日に、CBSソニーから沖田浩之のデビューシングル「E気持(イーきもち)」がリリースされた。作詞は阿木燿子、作曲は筒美京平というヒットメーカーが手がけている。鼻にかかった甘さのある声と、スッとした切れ長の涼しげな目の微笑が、一瞬にして女性たちのハートをつかんだ。前述の「ヤンヤン歌うスタジオ」や、「レッツゴーヤング」などにも、よく出演していた。「レッツゴーヤング」にはオープニングテーマ曲があって、沖田が出演していた時代のオープニング曲は「ムーンライト・カーニバル」だった。この曲は後年、NHK「思い出のメロディー」でも視聴者の思い出の1曲として紹介されている。番組とあわせて、アイドルに夢中になった当時の10代の若者たちの心に永遠に刻まれる1曲となっているのだろう。
沖田浩之は、昭和59年に歌手活動を終了した。その後は俳優として、数々のテレビドラマや映画、舞台に意欲的に出演していたが、36歳で自らの人生に終止符を打った。「半熟期」、Charのカバー曲「気絶するほど悩ましい」、アニメ「キャプテン翼」の主題歌「冬のライオン/燃えてヒーロー」など聴きたい曲はいろいろあるが、やはり今一度「E気持」を聴いてみたい。
次に紹介するのは、時代をさかのぼって昭和40年代。「骨まで愛して」という強烈なタイトルの曲で、昭和歌謡史に名を刻むことになった城卓也。菊地正夫の名でカントリー&ウエスタンの歌手として、昭和33年の第1回「日劇ウエスタンカーニバル」にも出演していた。テイチクレコードと契約しレコードデビューとなり、B面だった実兄の北原じゅん作詞・作曲・編曲による「スタコイ東京」が話題となったが、ヒットにはいたっていない。ちなみに北原じゅんは、アニメ「まんが日本昔ばなし」の主題歌や、北島三郎の「兄弟仁義」、西郷輝彦のデビュー曲「君だけを」の作曲で知られる。昭和38年に東芝レコード(後の東芝EMI、現在のEMIミュージック・ジャパン)に移籍後は「アホカイ節」といった民謡ロックテイストと言えるような楽曲を歌っていた。
そして昭和41年に城卓也と改名して「骨まで愛して」をリリース。140万枚をセールスする大ヒットとなった。日曜の午後にTBS系で放送されていた東芝音楽工業の協賛番組「東芝 歌うプレゼントショー」をはじめ、この年には多くの歌謡番組から、「骨まで愛して」が流れてきた。独特のハスキー・ボイスとこぶし回し、日本のヨーデルの第一人者であるウイリー沖山に師事した得意のヨーデルの要素もきかせた強烈な魅力的な歌声だった。作曲は北原じゅん、作詞は『月光仮面』の原作と脚本、青江三奈の「伊勢佐木町ブルース」、森進一の「おふくろさん」などの作詞で知られる川内康範。川内は北原&城兄弟の叔父に当たる。
川内が脚本を書き、渡哲也、浅丘ルリ子、松原智恵子らの出演で映画化もされている。続いてリリースされた「あなたの命」もやはり川内脚本で映画化され、渡、松原、宍戸錠らが出演した。いずれにも城卓也自身も出演している。なるほど、プロマイドを見てみると、俳優としても通用しそうである。そして、12月31日NHK紅白歌合戦に初出場を果たした。対戦相手の青江三奈も初出場だった。この年の初出場者には、加山雄三、ジャッキー吉川とブルーコメッツ、マイク真木らがいる。
2003年に公開された村上龍の小説を映画化した篠原哲雄監督『昭和歌謡大全集』(松田龍平、安藤政信、樋口可南子らが出演)では、森山加代子の「白い蝶のサンバ」、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」、ピンキーとキラーズの「恋の季節」、フランク永井の「有楽町で逢いましょう」、西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」など、昭和を代表するヒット曲と一緒に劇中に登場している。城卓也の「骨まで愛して」は、今でも人々の記憶に刻まれる1曲に違いない。