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第19回『東宝映画スタア☆パレード』三國連太郎 ひたすらオカマ・キャラに執着した東宝時代

 さすがに成瀬巳喜男の『夫婦』(1月公開)では、こうした実験=悪戯はできなかったようだが、続く『妻』(4月公開)では、上原謙夫婦宅の二階を間借りする〈なよなよ〉とした貧乏画学生役にトライ。なにゆえに三國が中性的な男性に執着したのかは不明だが、ちょっぴりくたびれた〝妻〟役の高峰三枝子とのやり取りからは、得も言われぬ可笑しみが感じ取られる。

『夫婦』の三國連太郎。本作では逆に上原謙夫妻を自宅に迎え入れる役 イラスト:Produce any Colour TaIZ/岡本和泉



 6月公開の市川崑監督『青色革命』で、またも下宿人役(今度は千田是也宅に住む)を振られた三國。市川作品なら堂々とできたものか、ますますオカマ度を深め、これを女性口調の優男として演じ切る。主たるお相手は芸達者の沢村貞子(千田の妻役)で、このコンビの相性も上々だった。


 三國は後年、「僕は市川監督から一番嫌われた役者」と自戒を込めて語っている。しかし、その後もオファーが続いたのはご存知のとおりで、市川作品には11月公開の『愛人』にも出演。ここでは菅井一郎扮する映画監督宅に住み込む助監督役を、割合ノーマルに演じていた。
 劇中「あらゆることを常識で処理する人間になりたい」などという台詞があるのは、市川崑の三國に対する皮肉であろうか。


 いよいよ三國の「オカマ・キャラ」話は、この年の5月に撮影が始まった『七人の侍』に及ぶ。なぜなら三國は、この映画に出演するはずだったからだ。


 黒澤明研究で定評のある西村雄一郎氏は自著『ぶれない男』(新潮社)に、三國から聞いた話として、最終的に宮口精二が演じた剣客・久蔵は、当初三國にオファーがきたものと記している。
 にわかには信じられない話だが、三國はこれを「ホモの役でやったらどうか」と黒澤に進言、即座に役を降ろされたというが、そりゃそうだろう。そんな久蔵は黒澤ならずとも、誰も見たくないだろうし、〈ホモ剣豪〉では勝四郎(木村功)が憧れを抱くはずもない。


 この件について三國は、後年『怪優伝 死ぬまで演じつづけること』(講談社)で、「…だから『吹けよ春風』を一本やっただけで、黒澤さんにはその後、使ってもらえなかった」と悔恨の情を滲ませている。西村氏が真偽のほどを確認すると、三國は「その通りです」とあっさり肯定したというから、恐らくこの話は真実だったのだろう。
 
 1954年になると三國の「ホモ」路線は消滅するが、1953年の一年間、三國がなにゆえに「ホモ=オカマ」に拘っていたのか、一度訊いてみたかったものだ。




※1 〝儲け役〟が三國に回ったのを妬んだものか、以来、共演の鶴田浩二は三國を敵対視し、三年ほど口をきかない関係となる。

※2 三國自身、このとき「月給五千円」が「一本百万円」に上がったと語っている(五十万円説もあり)。

※3 その理由は、三船が「撮影用の衣装を着て撮影所に通っていた」から。これも三船なりの役作りなのだが、三國にはそれが理解できなかったとだろう。ちなみに、三國が「黒澤以外の演出だと、(三船に)あれほどの精彩は見られない」と述べていることには、まったく同調しかねる。

※4 東映でも鶴田浩二と一緒となるが、犬猿の仲は続いた。

※5 上記以外では、内田吐夢、伊藤大輔、田坂具隆、豊田四郎、山本薩夫、吉村公三郎、新藤兼人、小林正樹、川島雄三、今村昌平、熊井啓、伊丹十三、相米慎二に至るまで、錚々たる監督と関わった。

※6 当然ながら三國は、続編には出演不能となり、この役は代わりに堺左千夫が演じた。





高田 雅彦(たかだ まさひこ)
1955年1月、山形市生まれ。生家が東宝映画封切館の株主だったことから、幼少時より東宝作品に親しむ。黒澤映画、クレージー映画、特撮作品には特に熱中。三船敏郎と植木等、ゴジラが三大アイドルとなる。東宝撮影所が近いという理由で選んだ成城大卒業後は、成城学園に勤務。ライフワークとして、東宝を中心とした日本映画研究を続ける。現在は、成城近辺の「ロケ地巡りツアー」講師や映画講座、映画文筆を中心に活動、クレージー・ソングの再現に注力するバンドマンでもある。著書に『成城映画散歩』(白桃書房)、『三船敏郎、この10本』(同)、『七人の侍 ロケ地の謎を探る』(アルファベータブックス)、近著として『今だから! 植木等』(同2022年1月刊)がある。




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