24.05.30 update

70年代を代表するデュオ、チェリッシュの「白いギター」を作詞した林春生は、国民的アニメ「サザエさん」のテーマ曲も作詞していた

シリーズ/わが昭和歌謡はドーナツ盤

 1960年代からはフォークブームに端を発するフォーク・デュオが活躍した。60年代のデビューでは、兄弟デュオのビリー・バンバン、ブレッド&バター、男女のデュオでは後に夫婦デュオになるヒデとロザンナがいた。70年代になってからは、あのねのね、H2O、風、紙ふうせん、グレープ、ジローズ、ダ・カーポ、チャゲ&飛鳥、チェリッシュ、トワ・エ・モア、ふきのとう、シモンズなどがいる。70年代に入ってフォークは、それまでの反戦などの政治的な内容から恋愛や青春時代といった個人の心情を歌うものにシフトして、曲の世界が身近になった。アコースティック・ギターを演奏しながら、楽曲を歌う二人のデュオは和製フォークの原型だろう。今回は、チェリッシュのことを振り返ってみたい。

 チェリッシュが、現在もコンサート活動を続けていることを改めて知ったのは、ゴールデンウイーク、実家にあったコンサートのチラシが目に入ったからである。小諸市文化会館に江木俊夫、おりも政夫、ロザンナ、平浩二、三善英史、高道、晃、桑江知子、ZEROとともに、チャリッシュもやってくるというものだ。高道は兄弟デュオ〝狩人〟の弟、晃は〝フィンガー5〟のハイトーンボイスの晃である。江木俊夫とおりも政夫は、一世を風靡したフォーリーブスのメンバーではないか。70年から80年代の初めに活躍した彼らが地方都市の会場に出向いて行うコンサートは、歌謡ファンの思い出や夢を共有する場になることは間違いない。

 コンサートで70年代を中心にヒット曲を飛ばしたチェリッシュは何を歌うのだろう。親しみやすい清純なメロディーと、みんながエッちゃんと呼んでいた松井悦子(現松崎)の声は、透明感があって優しい。代表曲の「てんとう虫のサンバ」かもしれないが、「若草の髪飾り」「ひまわりの小径」「避暑地の恋」「白いギター」「ペパーミント・キャンディー」も浮かんでくる。

 一方の松崎好孝は、ビートルズに憧れ、高校時代に通い始めたギター教室の気の合う仲間3人で「チェリッシュ」を結成した。クループ名は、アメリカのバンド、アソシエイションのヒット曲「チェリッシュ」に由来するものだという。エッちゃんも学生時代からコーラス部に所属し、歌の大好きな少女だった。チェリッシュはTBSの学生向け情報番組「ヤング720」にアマチュアバンドとして出演して、地元名古屋では人気があったという。松崎はこの番組で出会ったエッちゃんの声質に惹かれスカウト。5人のグループになり日比谷野外音楽堂で開催された「全国フォーク音楽祭」に出場した。優勝は逃したが、ビクターのディレクターから「スタジオが新しくなったから見に来ない?」と誘われて興味半分で出向いたところ、その半年後「なのにあなたは京都に行くの」でデビューが決まったのだ。作詞は脇田なおみ、作曲・藤田哲朗、編曲・馬飼野俊一で、71年9月5日のリリースである。松崎自身はフォーク・ロックをやっていたのに、流行歌のようなデビュー曲に葛藤があったという。その上、当時は天地真理や小柳ルミ子などのアイドルの時代で、ディレクターはエッちゃんをソロデビューさせたかったようだ。メンバーは次々に脱退してしまい、3枚目のシングル「ひまわりの小径」(作詞・林春生、作&編曲・筒美京平)から二人だけのデュオとしてスタート。「ひまわりの小径」(72)はオリコン最高位3位をマークした。翌年3月アルバム『春のロマンス オリジナルでつづるチェリッシュの世界』をリリースしたところ、アルバムのバリエーション用につくった「てんとう虫のサンバ」(作詞・さいとう大三、作&編曲・馬飼野俊一)が大阪のラジオで放送されるうちにリクエストが殺到し急遽7月、シングル化された。ジャケット写真もないまま慌ただしく発売された「てんとう虫のサンバ」は、今では教科書にも載り、結婚式の定番ソングになっている。本人たちも担当プロデューサーも予想もしていない出来事だった。

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.12.03
    きわどい熟年女性の性愛表現から母の優しさまでフラン...

    『山逢いのホテルで』見どころ

  • 2024.12.03
    東京ステーションギャラリー「生誕120年 宮脇綾子...

    応募〆切: 1月20日(月)

  • 2024.12.02
    橋幸夫・舟木一夫・西郷輝彦・三田明の青春歌謡四天王...

    松竹青春歌謡映画のヒロイン 尾崎奈々

  • 2024.12.02
    大注目のボートレーサーが集結した「2025年 BO...

    応募〆切:12月20日(金)

  • 2024.11.28
    第5回【東宝映画スタア☆パレード】酒井和歌子&内藤...

    文=高田雅彦

  • 2024.11.28
    クリスタルキングが歌唱した「大都会」の唯一無二のハ...

    クリスタルキング「大都会」

  • 2024.11.27
    第55回【萩原朔美 スマホ散歩】いまどきのカバン考...

    見事な自己表現!

  • 2024.11.25
    クリスマス・イブに手塚治虫の歴史的名作が蘇る!映画...

    応募〆切:12月15日(日)

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!