new 25.12.25 update

昭和の「NHK紅白歌合戦」の常連だった浪曲出身の二大スター歌手、村田英雄は「王将」を大ヒットさせ、三波春夫は堂々と大トリを3回飾った


 間もなく大晦日恒例の「NHK紅白歌合戦」である。2025年(昭和100年)を締めくくるこの歌謡ショーも数えて第76回。すでに出演者も発表されているが、昭和歌謡全盛時代の記憶を残している世代には、紅白といえば〝懐メロ〟がよみがえってしまうことをお許し願いたい。

 小学生の頃、明治生まれの父はラジオから流れる浪曲をじっと聴き入っている時間が多く、自然と耳に入ってくる広沢虎造のうなり声のフレーズも微かに記憶にある。「旅ゆけば~駿河の国の茶の香り~」と、「清水次郎長伝」の森の石松が題材で、「呑みねえ食いねえ」「馬鹿は死ななきゃぁ~なおらない」と断片的に科白も覚えている。昭和の時代、ラジオには浪曲のレギュラー番組があったのだ。

 昭和30年代に入って、浪曲界から二人の演歌歌謡のスターが誕生する。三波春夫と村田英雄である。6つ年上の三波春夫はひと足先に、〝浪曲調歌謡曲〟を目指していた頃、まだ20代の若手浪曲師、村田英雄の口演をたまたまラジオで聴いた作曲家・古賀政男は、浪曲を歌謡曲のように歌えないか、と閃いたという。村田英雄は古賀政男に見いだされて歌謡界に出たのだった。

 村田の歌謡浪曲のデビューは、1958年(昭和33)。岩下俊作の原作による代表的な浪曲ドラマ『無法松の一生』をアレンジしたものだった。同名で映画(1943年・稲垣浩監督、主演・阪東妻三郎)にもなっていたし、1958年のリメイク版映画(主演・三船敏郎)も公開されている(ただし、主題歌ではない)。~小倉生まれで、玄海育ち~と、作詞したのは吉野夫二郎、作曲:古賀政男。しかし、その後3年間シングル盤を打てども打てどもヒットに恵まれない雌伏期間だったが、昭和36年(1961)9月に発売された歌謡浪曲のLPからシングルカットされて11月に発売されたのが、「王将」(作詞:西條八十、作曲:船村徹)だった。関西ではヒットしていたというが、11月の発売にもかかわらず大晦日の第12回NHK紅白歌合戦に、村田英雄は「王将」で初出場を果たすのである。それだけ凄まじい売上げで、半年もしないうちに30万枚を達成し、あっという間にミリオンセラーを記録する。「王将」の勢いはそれまでリリースされていた「無法松~」や「人生劇場」(1959、作詞:佐藤惣之助、作曲:古賀政男)などにも遅ればせながら火をつけて、村田英雄は一気に全国区になっていった。

 
 この年、忘れられない昭和歌謡のオンパレードの年でもあった。年間シングルランキングのベストテンを上げると、①上を向いて歩こう(坂本九)、②王将(村田英雄)、③スーダラ節(植木等)、④銀座の恋の物語(石原裕次郎&牧村旬子)、⑤君恋し(フランク永井)、⑥恋しているんだもん(島倉千代子)、⑦おひまなら来てね(五月みどり)、⑧コーヒー・ルンバ(西田佐知子)、⑨ラストダンスは私に(越路吹雪)、⑩東京ドドンパ娘(渡辺マリ)である。そして第3回日本レコード大賞はフランク永井「君恋し」が受賞。翌年までヒットが続いて第4回日本レコード大賞特別賞を受賞したのは、村田の「王将」と、西田佐知子は2年越しで「アカシアの雨がやむとき」がヒットして受賞している。

 因みに、終生ライバル視され歌謡浪曲で先行デビューしていた三波春夫は、紅白出場連続4回目にして、「文左たから船」を歌唱して大トリを飾っている。大きく水を空けられているとはいえ、ボクの好みは村田英雄だったと言ってしまおう。余談だが、大相撲の栃錦VS.若乃花といえば若乃花、大鵬VS.柏戸といえば断然柏戸、北の湖VS.輪島といえば輪島だったことと似ている。これはどうにも解説のしようがない。ただの好みである。あえて言えば太陽のように明るくスキのなさそうな三波春夫もいいが、常に2番手ながら垢抜けない男臭さを放ちどこか愛嬌のある村田が好きだった。後にビートたけしが「オールナイトニッポン」でやたらと村田英雄をイジったが、いじられキャラの抜けたところに親しみがあった。

 この二人のライバル関係は茶の間の大人たちは面白おかしく話題にしていた。

1 2

新着記事

  • 2025.12.25
    昭和の「NHK紅白歌合戦」の常連だった浪曲出身の二...

    村田英雄「王将」

  • 2025.12.25
    第68回【萩原朔美 スマホ散歩】夢見る「重さ博物館...

    ウエイトは重要な道具だ

  • 2025.12.23
    銀幕の妖精と呼ばれた、オードリー・ヘプバーンの写真...

    開催中~3月8日(日)

  • 2025.12.23
    キムラ緑子のパワフルでダイナミックな歌とダンスで、...

    東京:1月2日~20日、大阪

  • 2025.12.23
    映画の世界観を追体験する展覧会『映画「国宝」展 ―...

    1月7日(水)~28日(水)

  • 2025.12.23
    30万部突破のベストセラー! 藤川徳美医師の最新刊...

    応募〆切:1月31日(土)

  • 2025.12.23
    「ロックンロールの父」チャック・ベリーの生誕100...

    応募〆切:1月12日

  • 2025.12.22
    第18回『東宝映画スタア☆パレード』植木 等② 誰...

    文=高田雅彦

  • 2025.12.22
    第39回【キジュを超えて】わが職人技?─萩原 朔美...

    文=萩原朔美

  • 2025.12.22
    『東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画...

    応募〆切:1月22日(木)

映画は死なず

特集 special feature  »

<特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が語る「三屋清左衛門残日録」~時代劇にはまだまだ未来がある~

特集 <特集>今、時代劇が熱い! 第三弾 主演北大路欣也が...

藤沢周平原作時代劇「三屋清左衛門残目録」の章

松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松宗雄が語る誕生秘話〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

特集 松田聖子デビューから45年、伝説のプロデューサー若松...

〈わが昭和歌謡はドーナツ盤〉特別企画

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!