招き猫の誘われて
TOWN STORY 2013年1月1日号より
福を招くという招き猫伝説が伝わる寺の名が駅名になった小田急小田原線の駅、豪徳寺。駅前にはその伝説にちなみ御影石で作られた招き猫像が設置されている。新宿までは小田急線で15分程度、東急世田谷線の山下駅とも隣接しているので渋谷にも近い。昔からの商店街があり、閑静な住宅街の顔も持つ、暮しやすそうな町である。招福を期待して世田谷線の線路伝いに散歩人との待ち合わせ場所である豪徳寺へ向かう。
今回の散歩人は俳優の高橋光臣さん。なんとなく昭和の青年の香りのする高橋さんと豪徳寺の町から、どんなドラマが生まれるのか楽しみだ。
招福の寺で俳優としての飛躍を祈念
NHK朝の連続テレビ小説「梅ちゃん先生」でのどこか世間離れしたマイペースな松岡役が話題となり、その後のNHK土曜ドラマ「実験刑事トトリ」では三上博史さんの相棒となる準主役の刑事役で出演、NISSANの車のCMでは松山ケンイチさんと共演するなど、多忙な日々をおくる俳優・高橋光臣さん。この日の待ち合わせもNHKの生番組の出演を終えてからとなった。待ち合わせ場所は招き猫の寺とも言われる豪徳寺の山門。
「自分でも驚いているんですが、現在一日も休みがとれない状況になっています。やはり『梅ちゃん先生』の影響だと思います。役と自分がピタリとはまるタイミングってあるんですね。ありがたいことです」ドラマの収録、取材とプライベートな時間を持つことが難しい日々を送っているに違いないが、ノッている人の表情はやはりイキイキと輝きを放っている。早速、招き猫伝説の招福にあやかって、参拝することにした。境内は広く、平日の午後にもかかわらず参拝する人の姿がそこかしこに見られた。高橋さんに気づいた参拝客の数人から「松岡先生!」と「梅ちゃん先生」の役名で声がかかり、松岡先生がはにかみを見せる。NHKの朝ドラの効力はあなどれない。
豪徳寺の招き猫伝説の由来を簡単に説明すると、彦根藩主井伊直孝が鷹狩りの帰りに寺の前を通りかかったところ、寺の飼い猫が手招きをしたため、直孝は寺で一休みすることにした。住職からお茶の接待を受けている最中ににわかに空模様が悪くなり、雷雨になった。直孝は「猫が招いてくれたおかげで、ずぶ濡れにならずに済んだ。その上和尚のありがたい法談まで聞くことができ、これは縁起がいい」と大層喜び、これが縁でこの寺が井伊家の菩提寺となったという。豪徳寺には井伊直孝、直弼をはじめ井伊家代々の墓が建てられている。立派な寺になる縁を飼い猫が作ってくれたという次第である。そしていつの頃からか、この猫を招福猫児(まねぎねこ)と称えて崇めるようになったという。
招猫観音を祀る〈招猫殿〉の横には、願が成就したお礼として数多くの招福猫児が奉納されている。ちなみにここの招福猫児は右手を上げている。高橋さんも期するところがあるのか、奉納された招福猫児を興味深く見ている。俳優としてのこれからの飛躍を祈念しているのだろうか。高橋さんが参拝に訪れていると知り住職・粕川鐵禅さんが境内に姿を見せた。毎朝「梅ちゃん先生」をご覧になっていたということで、声をかけてくださったのだ。ありがたい激励の言葉をかけていただいたらしく、高橋さんも恐縮気味である。