絹のような声と
舞踊のように
流れるような所作の美しさ
12号に登場していただいたのは、やはり大映出身の藤村志保さん。私が藤村志保という女優の名を知ったのは、小学生のころ父に連れられて観た映画『斬る』(監督:三隈研次、主演:市川雷蔵)だった。オープニングシーン、しずしずと廊下を歩く奥女中の足元をカメラは追う。そして御女中はある部屋の襖を開け「お家のため、お命を頂戴いたします」と寝ている殿の愛妾に刃を振りかざす。逃げまわる側室、短刀を手に追いかける御女中。そこにタイトルクレジットが重なる。そしてついに御女中は側室を討つ。この御女中が藤村志保だった。恐かった。小学生の記憶にも、このシーンは鮮明に刻まれた。その後、多くの作品で藤村さんと出会うなかで、その声にも魅せられた。そして藤村さんを思うとき、少しは芝居がわかってきた私の脳裏には、覚悟の女性を演じる藤村さんの姿がいつも浮かぶ。テレビドラマ「幻花」で立ち腹を切る足利義政の愛妾今参局、大河ドラマ「風林火山」での今川義元の母・寿桂尼。それらの女人を通して藤村志保という女優のイメージを勝手に創りあげていた。
実際にお会いした藤村さんは、着物姿の凛凛しさ、美しく化粧を施したような声の品格はそのままに、気配りがきき、時折お茶目な表情もみせてくれるすばらしくチャーミングな女性だった。お相手は「風林火山」の脚本を手がけた大森寿美男さんで、お2人は3度ドラマでご一緒した仲。撮影の数日前、大森さんから電話がかかってきた。「藤村さんがお着物なら僕も着物にしようと思うのですが」と。藤村さんからプレゼントされた着物に一度も袖を通す機会がなかったので、ぜひ藤村さんに着物姿をご披露したいということだった。「着物を着るにはどうすればいいのでしょうか、何をそろえればいいのでしょう」と、私も着物に通じてはいなかったが相談に乗ることになり、当日は日本舞踊を嗜む友人に着付けで来てもらった。撮影場所は当時巣鴨にあった、藤村さんの妹さんが女将を務める「日本料理 すがも 田村」で、「なんだか息子のお披露目に付き添う母親の心境だわ」と、藤村さんは大森さんにかいがいしく世話をやいていた。大森さんは「藤村志保さんには大いなる人間力を感じます」と讃え、「素晴らしい俳優と作品を創る喜びを教えてもらいました」と、藤村さんとの出会いは一生の宝物だと、昨年は朝ドラ「なつぞら」でも筆を揮った。
少年時代からの
憧れのお姉さん
星由里子さん
2018年5月、西城秀樹さんの死に続き、星由里子さんの訃報が伝えられた。だが、テレビ時代のスターアイドルである〝ヒデキ〟のニュースに比べて、星さんの死は、テレビのワイドショーなどではあまりにもあっさりと報じられ、少年時代を『若大将シリーズ』で過ごした身にとっては、寂しかった。表紙の銀幕女優シリーズには、星さんにもぜひとも出ていただきたいと思っていたが、星さんは京都暮し。この撮影だけのためにお出かけいただくことは難しいかな、と考えていた折に好機が訪れた。2011年度の菊田一夫演劇賞で特別賞を受賞した司葉子さんへお祝いの花束贈呈者のゲストとして会場に星さんを見つけた。授賞式の後のパーティで、料理を召し上がっている最中の星さんに失礼ながらも図々しく声をかけたのだ。そして思いを伝えた。その場では談笑するに終わった。その後、正式に事務所へ依頼をさしあげ、東京の舞台に出演中の楽屋にも、幕間にまたまた図々しく大胆にも馴染みのレストランのシェフに作ってもらった弁当を楽屋見舞いにご挨拶にもうかがった。星さんは私の暴挙にあきれることなく歓待してくださった。そうして、第13号の表紙に登場いただくことが実現した。
撮影場所に現れた星さんは開口一番「粘り勝ちね」と、いらずらっぽい笑顔を見せた。お相手は加山雄三さんが人生の指針だと言う、ブリキのおもちゃコレクターの第一人者として知られる北原照久さん。〝若大将〟の恋人〝澄ちゃん〟を演じた星さんは、北原さんにとっても〝心の恋人〟という存在。気分はすっかり若大将、とご本人を前に感激しっぱなしだった。その後も、星さんが東京の舞台に出演なさる際には出かけた。時折、メールのやりとりもさせていただくようになっていた。星さんの病気のことなどまったく知らなかった。だから訃報は寝耳に水で、にわかには信じ難かった。悲しみは後からじんわりと押し寄せてくる。