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ツツジが咲き誇るGWの頃にファンタジックで愛があふれる『花まんま』で泣きましょう! 直木賞受賞作ついに映画化!

 原作と映画ではいくつもの違いがある。しかし原作を読んで泣いた、そして試写を観てさらに泣いた。原作の、不思議でちょっと不気味に思える物語を一気に読み終えた。関西弁のテンポに笑いながら、内心(そんなアホなことあるんかいな)と斜に構えたが、ツツジの花がいっぱい詰め込まれたお弁当、〝花まんま〟の件(くだり)で涙があふれていた。互いに知らぬ家族同士、年齢も開いた女子同士の、生まれ変わりのファンタジーを読み終えて、果たして映画はどうストーリー展開するのだろうか、と興味津々だった。

 
 産気づいた母・加藤ゆうこ(安藤玉恵)は夫・加藤恭平(板橋駿谷)と長男・加藤俊樹(田村塁希=鈴木亮平)に見守られて病院に担ぎ込まれたとき、通り魔に襲われ瀕死の繁田喜代美(南琴奈)がストレッチャーに乗せられてすれ違う。平成7年4月27日、加藤フミ子(小野美音=有村架純)が生まれ、同日23歳のバスガイド、繁田喜代美は死去。4人となった加藤家の幸せは2年後に大黒柱の恭平の交通事故で失われ、母・ゆうこは働き通しで二人の幼子を育てるが11年後に力尽きる。兄妹ふたりきりとなった。

 生前父親から「兄ちゃんは妹をしっかり守るんやで」と言い渡され約束した俊樹は、高校を中退し町工場で油まみれとなって働いてフミ子を大学まで通わせていた。だが、俊樹はフミ子から結婚すると言い出され、ある不安が過ぎっていた。フミ子が6歳のとき、高熱をだしてからあきらかに大人びて様子が変わったことが気になっていたのだ。フミ子のノートには、繁田喜代美の名がびっしりと書き込まれている。フミ子に何が起きたのか。フミ子と23歳の繁田喜代美の生と死の因縁は? フミ子に喜代美の記憶が忍びこんでいた?! フミ子は結婚の報告を済ませていた滋賀県彦根の繁田家に、俊樹を説得して再び訪れる…。それはフミ子の結婚式の前々日、喜代美の誕生日でもあったが、追うようにして俊樹は彦根に向かう……

 
 原作は第133回(2005年=平成17上半期)の直木賞受賞の表題作、朱川湊人の短編集『花まんま』。前田哲監督が、この短編集の中の表題作「花まんま」と出合ってから「いつか映画にしたい」との思いから17年を経て完成させた。人間への温かい眼差しと確かな演出力で、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』『九十歳。何がめでたい』等々笑いと涙の感動を紡いできた前田監督の念願の映画化が実現した。

 本作が熱い涙に誘われるのは、繁田喜代美の家族の存在を抜きにはできない。父の繁田仁に酒向芳、姉のキムラ緑子、兄の六角精児と演技派のキャスティングが物語を深く温かく支えている。まっすぐなお人好しの大学の助教でフミ子の婚約者の中沢太郎(鈴鹿央士)の存在もこの物語をほほえましくしているし、俊樹と幼馴染のお好み焼き屋「みよし」の看板娘(ファーストサマーウイカ)も兄妹の間で世話を焼き、いかにも関西姐さんの気風が子気味いい。見事に噛み合った〝花まんま(前田組)組〟が本作の温かさを醸し出しているのだろう。

 喜代美がよく作っていた、ツツジの白い花をご飯にして、紅い花を梅干しに見立てたお弁当〝花まんま〟を目にしたときの、酒向芳の涙が忘れられない。ツツジの季節に公開されるこのファンタジックな本作で、涙あふれるひと時を過ごしながら、「人間っていいな、温かいな、映画ってやっぱりいいな」とあらためて気づかせてくれることでしょう。


『花まんま』
2025年4月25日(金) 全国公開
出演:鈴木亮平 有村架純
   鈴鹿央士 ファーストサマーウイカ 安藤玉恵 オール阪神 オール巨人
   板橋駿谷 田村塁希 小野美音 南 琴奈 馬場園 梓
   六角精児 キムラ緑子 酒向 芳
原作:朱川湊人『花まんま』(文春文庫) ✿第133回直木賞受賞
監督:前田 哲(『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』『九十歳。何がめでたい』ほか)
脚本:北 敬太
イメージソング:AI「my wish」(UNIVERSAL MUSIC / EMI Records)
映画コピーライト:ⓒ2025「花まんま」製作委員会
配給:東映




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