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『「桐島です」』に続いて『安楽死特区』で主役を演じる俳優・毎熊克哉。一瞬をスクリーンに焼き付けるという映画に魅せられる

「『安楽死特区』の企画の方が先に進行していたが、2024年1月に桐島聡容疑者が亡くなって急遽『「桐島です」』が動きはじめた、と聞きました。脚本が仕上がり『「桐島です」』と『安楽死特区』二本分のオファーを同時にいただきました。2作とも高橋伴明監督の作品で主演は驚きましたが、毎熊克哉という俳優を知っていただけていたのだと思うと嬉しかったですね。『「桐島です」』は最近まで実在していた指名手配犯。『安楽死特区』は若くして難病を患い安楽死を望むラッパー。どちらも全く違う難しさがあって、どこからどう考えて準備したらいいのかなと苦悩しました。正直怖いという気持ちがありました。自ら死を望むほどの苦痛とは何なのか、家族やパートナーを送り出さなければならない残される人の気持ち、判断を迫られる医師、国の制度。撮影までの時間は様々な角度からいろいろと考えを巡らせました。
 安楽死特区というのは、現在の日本にはないので架空のお話ですが、回復することはない難病を抱えてる方は世の中にたくさんいらっしゃって、実際、スイスまで行って安楽死をされた方もいる。この映画は架空ではあるけれど幻想ではないので現実的に表現していく必要がありました。自分自身が章太郎と同じ状況だったら? と想像すると、耐え難い苦痛と不自由、まだ若いパートナーの未来まで付き合わせてしまう罪悪感に苛まれて、やっぱり安楽死を希望するかもしれない。逆に歩の立場で想像すると、相手が望むことを認めてあげたいけど認めたくない、認めてしまったら一生後悔し続けるかもしれない。医師の立場で想像すると、双方の意見を聞いて判断しなければならないのはとても重たい事です。

  一方で、この作品に出合う前の自分が「安楽死をどう思いますか?」と問われると、すぐには答えられないでしょう。自分や家族、友だちが無縁だと思っているからです。しかし、章太郎のように若くして難病を患ったり、明日事故に遭って体が不自由になる可能性は誰にでも、ある。生と死の間で揺れ動く、そういう映画に真正面から向き合うということは、俳優としても映画に携わる人間としてもすごく重要なことじゃないかと思い、覚悟をもって演じる決心をしました」



 前作『「桐島です」』で毎熊が演じたのは、70年代の連続企業爆破事件で指名手配された「東アジア反日武装戦線」のメンバー、桐島聡容疑者。桐島とみられる人物が、末期の胃癌のため神奈川県内の病院に入院していることが判明した、と2024年1月26日にニュースで報じられるや話題になったので、「あの桐島か」と思い浮かべる人も多いだろう。男は数十年前から「ウチダヒロシ」と名乗り神奈川県藤沢市内の土木関係の会社で住み込みで働いていたが、「最期は本名で迎えたい」と「桐島です」と名乗り、報道の3日後に亡くなり、約半世紀にわたる逃亡生活に幕を下ろした。映画は、このベールに包まれた桐島の軌跡を追う。

 毎熊は、桐島の20代から70歳で亡くなるまでを演じた。人の嫌がることを骨身を惜しまず積極的にやり、人にやさしく、誰からも嫌われることなく、同じ会社に何十年も務め続け、地味な日常に徹した〝時代遅れ〟な男の姿を、毎熊は観客を惹きつける人物造形で桐島を演じ切り、観客に感情移入させてしまう。ニュース報道だけでは知り得ない、弱い立場の人に寄り添う桐島の人柄と心の内を日常の風景の中から浮かび上がらせる。桐島の感情、監督の感情、脚本の梶原阿貴の感情、桐島を演じる毎熊の感情が見事に重なり、フィクションとしての映画として成立させていた。なお、『安楽死特区』の原作者である長尾和宏が製作総指揮を務めている。

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