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第32回【私を映画に連れてって!】「映画は誰のものか」と考えさせられる製作委員会方式のシステムと運営

 しかし、問題はその後の権利運用である。当時の日本映画が海外でヒットすることはほとんどない時代だが、『南極物語』は一部の国で上映やリメイク権、映像の使用権など現在でも、どこかで上映、ビデオ、放送、配信が行われているのである。

 ある意味で映画配給会社はプロであるのだが、日本ヘラルドおよび東宝には配給を「委託」しているだけなのである。著作権者は3社だ。日本の製作以外なら「蔵原プロ」が中心になることが多いだろうか。

 著作権法第29条1項は「映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する」とある。

 この解釈はこの40年くらいで変わってきている部分はあるが、多くの著作者がいる映画の場合、製作者=プロデューサーが企画、製作の意図を監督、スタッフらの理解を得て創作物などを製作者に委任(委譲)することにより、プロデューサーがまとめて権利運用などが円滑に出来ることを意味している。大げさに言えば、著作者である監督や、たとえば脚本家、美術デザイナーが「完成した映画が思いと異なる出来になった」としても、公開や、権利運用は製作者が運用できるということだ。

 ただ、日本の場合は製作者=プロデューサーが、次第に製作者⇒製作社、そして製作社=製作委員会となっていった。

 東映などが幹事で製作委員会を組成する場合は、ネガ(オリジナル原版)の管理などはプロであるので問題は無い。本来「製作委員会」は映画や映像に関する会社(ある意味でそれを本業、事業として行っている法人)に参加が限定されているのだが、徐々に全く業種外の法人が参加していった。

 生前の市川崑監督から『幸福』(1981/2009年に当時のフィルムセンターにて復元35ミリプリント製作後、ビデオ化)と『その木戸を通って』(1993/元はハイビジョンドラマとして制作/2008年に劇場公開)のビデオ化や公開を依頼され、たまたまフジテレビ絡みの作品だったので実現できた。

▲1993年に、ハイビジョン放送の試験放送向けのテレビドラマとしてフジテレビが制作した山本周五郎原作、市川崑監督の『その木戸を通って』。35mmフィルムに変換され国際映画祭などでは上映されたが、2008年に劇場公開されるまでは、それ以外で上映されることがなく幻の映画として扱われていた。主演は中井貴一と浅野ゆう子で、石坂浩二、榎木孝明、岸田今日子、神山繫、井川比佐志、フランキー堺、うじきつよしら、市川作品にゆかりの俳優たちが共演している。

 

 その時、『鹿鳴館』(1986)の話も出たが、これは当時、丸源ビルのオーナーが製作者で、亡くなるまで(2024年)ビデオすら発売にならなかった。唯一、国立映画アーカイブ(元東京国立近代美術館フィルムセンター)にプリントは1本存在するが。

 製作者のポリシーなら致し方ないところでもあるが、未だにビデオ化にもならないことは監督、スタッフ、キャストらは残念であると思う。

▲1986年に公開された市川崑監督『鹿鳴館』は、三島由紀夫の戯曲で56年に文学座での初演以来、数々の舞台で上演を繰り返している。初演の舞台では、影山朝子を杉村春子、影山伯爵を中村伸郎、清原永之輔を北村和夫が演じたほか、長岡輝子、丹阿弥谷津子、仲谷昇、宮口精二、賀原夏子、三津田健ら、今思うとすごい演劇人らの共演だった。62年の新派公演では初代水谷八重子が朝子を演じ、その後も舞台では村松英子、二代目水谷八重子、佐久間良子、若尾文子らが朝子を演じている。映画では朝子を浅丘ルリ子、影山伯爵を菅原文太、清原永之輔を石坂浩二、永之輔の息子・久雄を中井貴一、大徳寺公爵令嬢顕子を沢口靖子が演じたほか、岸田今日子、井川比佐志、浅利香津代、渡辺篤史、尾美としのり、横山道代、神山繫、三橋達也というキャスティングだった。衣裳はワダエミが手がけている。映画はマルゲンフィルムの解散と権利上の問題で封印されている状態で、作品そのものの版権と原盤の所在が不明なためソフト化も上映も困難になっている。個人的には公開時のお披露目劇場試写会で観られたことは幸いだったが、今改めて観てみたい作品であり、観ることができないのがいかにも残念だ。



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