22.08.26 update

第18回 舟木一夫の〝学園〟生活も成城で!

 本作では、成城学園のグラウンド・体育館周りでもロケが行われている。1952年公開の新東宝映画『若き日のあやまち』(野村浩将監督、左幸子出演)や東宝映画『あゝ青春に涙あり』(杉江敏男監督、池部良・久慈あさみ出演)、さらには小林正樹監督の『まごころ』(53年/石濱朗出演)でも見られたキャンパス風景が、ここではカラー=総天然色画像で捉えられているので、学園ものの甘酸っぱい気分がよく出ている。ヒロイン・本間千代子の白の短パン姿(ブルマーではありません)もやけに目に眩しい。

 堺正章扮する同級生の父親=PTA会長が高級車で乗りつけるのは、62年に竣工したばかりの成城学園中学校の新校舎。『ハワイの若大将』(63年/福田純監督)で、若大将(加山雄三)と青大将(田中邦衛)がカンニング行為に及んだ教室棟である。

 他にも成城学園の様々な施設の〈60年代の姿〉が見られる本作、学園の卒業生・関係者にとっては松竹の『思い出の指輪』(68年/斎藤耕一監督)と並ぶ、有難い‶成城ロケ映画〟の一本となっている。

『君たちがいて僕がいた』『夢のハワイで盆踊り』のDVDジャケット(筆者所蔵)

‶舟木一夫meets成城〟の二本目は、やはり自曲の映画化となる『夢のハワイで盆踊り』(同年8月1日封切)(註2)。一般庶民にとっては、タイトルどおりハワイ行きがいまだ「夢のまた夢」だった時代に、大学生が自力で当地に渡り、戦争で死んだ父親の墓参りを果たすだけでなく、ワイキキビーチでの盆踊り大会も実現するというという、なんとも夢のある(?)ストーリーをもつ本作。前作同様、鷹森立一(註3)が監督しているが、実年齢十九歳の舟木は大学生役に昇格。今回は大学生の物語であることから、成城大学の構内で大々的なロケーションが実施されている。

 大学生になった舟木(役名は夏夫)は、小田急デパート配達員のアルバイトを始める。これも、かねてから夢に見るハワイ行きを実現するためだが、自転車で商品を配達中に、お得意様のお嬢さん・美代子(またも本間千代子!)が運転する車に轢かれそうになる。ところが、逆に美代子のほうが気絶。病院行きとなって、バイトはクビに。これにより夏夫は、大学の掲示板で新たなバイトを探す必要が生じるのだが、画面に映ったそのキャンパスは、またもや成城学園のものであった。

 掲示板が置かれた成城大学「1号館」は、『ハワイの若大将』で雄一と青大将が不正行為で停学処分の申し渡しを受けた校舎。ここは否でも「ハワイ繋がり」を感じるところだ。本間が青大将よろしく、通学用のスポーツカーを構内に乗り入れると、画面の奥にはこの年に竣工したばかりの新校舎「2号館」の姿が見える。

 高校の同級生・高橋元太郎(註4)も当大学に入学していて、舟木と共に「1号館」前から学園名所の「成城池」へと移動、ここでテニスルックのお嬢様・本間と出くわす。池は深い緑に囲まれており、都心の大学にはない環境の良さが実感できる。

 その形状から「ドーナツ池」とも称されるこの池は、学園がグラウンド造成のため土を採ったとき、脇を流れる仙川(註5)の水が流れ込んで、偶然できたもの。かつては、自学園はおろか他の小学校の生徒たちまでザリガニ釣りにやってきた、自由な遊び場であった。池の周辺では大林宣彦監督が『Complexe=微熱の玻璃あるいは悲しい饒舌ワルツに乗って葬列の散歩道』(64年)を撮ったほか、『サザエさんの新婚家庭』(59年/青柳信雄監督)で江利チエミと江原達怡が、前述の『思い出の指輪』では山本リンダがこの池端に立っている(註6)。

緑豊かな成城池とグラウンド風景(成城学園教育研究所所蔵) 右は『続髙校三年生』でもロケ地となった成城学園中学校校舎(2020年解体。撮影:神田亨)
 

1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.16
    日本映画の黄金期に活躍した、團伊久磨、芥川也寸志、...

    5月25日(土)~7月28日(日)

  • 2024.05.14
    阿木燿子作詞、宇崎竜童作曲の名曲を得て、自身初とな...

    ミュージシャンという肩書が似合うようになった

  • 2024.05.14
    全米の映画賞を席巻した話題作『ホールドオーバーズ ...

    応募〆切:6月5日(水)

  • 2024.05.14
    『あぶない刑事』の舘ひろし&柴田恭兵、70歳超コン...

    5月24日(金)公開

  • 2024.05.10
    背中トントン懐かしい ─萩原 朔美   

    第14回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.10
    練馬区立美術館「三島喜美代─未来への記憶」展 観賞...

    応募〆切:5月31日(金)

  • 2024.05.10
    <特集>帰ってきた日本文化の粋 ─ 今、時代劇が熱...

    文=米谷紳之介

  • 2024.05.09
    吉田修一原作×大森立嗣監督が『湖の女たち』で再びタ...

    5月17日(金)全国公開

  • 2024.05.09
    東宝映画『ゴジラ』のヒロインに抜擢され、その後俳優...

    東宝から俳優座へ。

  • 2024.05.09
    松田聖子、田原俊彦らアイドル全盛期の昭和56年、西...

    アイドル全盛期のスター

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!