23.08.24 update

第4回 『私をスキーに連れてって』に続く『彼女が水着にきがえたら』『波の数だけ抱きしめて』製作打ち明け話

『私スキ』公開の半年後に入院生活を余儀なくされ、『彼女が水着にきがえたら』のシナリオ打ち合わせやキャスティングは病院で行なったとも言える。湘南の海を舞台の、トレンディ! な映画のキャストを病室のベッド上で考えざるを得なかった。ポスト三上博史はオーディションで選ぶことにした。さすがに一般公募はしなかったが、新人を中心に100人くらいの中から選ぶことになった。
 これも出会いの一つだが、病室のビデオで織田裕二主演のドラマ「十九歳」(NHK/1988)を見た。ベッド上で見ていて、彼の精悍で、ストレートな目線がとても新鮮だった。これこそ青春スターだ! と思ったかは記憶は無いが、イケルとは感じたのだろう。


 彼でキャスティングを決めた後に、オーディションにはその後、大活躍している多くの新人俳優たちが参加してくれていたことを知った。唐沢寿明さんの書いたミリオンセラー『ふたり』(1996)では、『彼女が水着にきがえたら』等のオーディションに落ちたことをバネに、その後スター俳優の道に邁進する決意の旨が書かれていた。
 アメリカなどに比べると日本の映画やドラマはオーディションが極めて少ないが、今後はますます必要になって来るであろう。限られた中ばかりでキャスティングをやっていては、新しい作品が登場する機会も逸することになる可能性がある。
 そんな流れで『彼女が水着にきがえたら』は、原田知世&織田裕二の主演コンビになった。 問題は音楽だった。

 馬場監督はユーミンフリーク。しかも、元々のアイデアにユーミンの「SURF&SNOW」(1980)のアルバムのコンセプトがある。例えれば「逗子マリーナ&苗場プリンス」的な。
 僕自身もそれは十分わかっていたが、サザンオールスターズ好きとしては、一度は桑田佳祐さんに主題歌を作ってほしい希望もあった。事前の感触では事務所(アミューズ:不思議な縁でそこから10数年後自分もお世話になることに)の会長も乗ってくれていた。ユーミンVSサザン、では無いが、どちらかの選択しかない。
 ここで登場するのがホイチョイ・プロダクションのマーケティング戦略だ(彼らはフジテレビで「マーケティング天国」(フジテレビ/1988-1990)という番組まで始めた)。ユーミンとサザンには、申し訳ない限りだが、渋谷辺りの街の若者が「スキー」のあとの「海」の映画の音楽に誰を期待するかアンケート調査……。詳細は書けないが、やはり多くのミュージシャンの中で圧倒的に、この2人に期待が集まった。
 映画はデータ通りにヒットするわけではない。ただ、ホイチョイスピリッツでは、〝求められない映画〟を作りたくは無い。自分たちが創りたいものを作り、それを〝求める人〟がいるということは外せなかったのだと思う。

 映画の新曲(主題歌)を依頼するのは実は悩ましい。『私をスキーに連れてって』にユーミンの書き下ろしの新曲はない。「恋人がサンタクロース」が流れると『私スキ』を思い起こす人が多いので、主題歌と思っている人も少なくないが、正確には「挿入歌」だ。
『彼女が水着にきがえたら』は桑田佳祐さんに新曲を2曲お願いすることなった。結果、出来上がったのは1曲で「さよならベイビー」となっていた。今では名曲だと思えるし、当時もサザンオールスターズとしては初のオリコン1位にもなった。
 それでも映画が完成しているわけではなく、台本をベースにイメージを具現化していく作業は、監督、ミュージシャン、僕も含めて頭の中の映像は一つでは無いだろう。
 映画が〝綜合芸術〟と呼ばれたりするのも、多くの人の違った感性が1本の映画に重なり合わさることの結果、ということだ。
 試写に桑田夫妻がいらして、馬場監督らともクリエイティブな会話がされた翌年、映画『稲村ジェーン』(1990)で桑田さんが初監督をされた。主題歌「真夏の果実」は見事に映画とハマって傑作だと思った。
『彼女が水着にきがえたら』は興行的には『私スキ』よりもヒットした。織田裕二はその後ドラマ「東京ラブストーリー」(フジテレビ/1991)、映画『波の数だけ抱きしめて』(1991)と大スターへの階段を駆け上がっていく。

1 2 3 4

映画は死なず

新着記事

  • 2024.07.27
    泉屋博古館東京「昭和モダーン モザイクのいろどり ...

    応募〆切:8月27日(火)

  • 2024.07.25
    3度目の挑戦で俳優座養成所に合格した田中邦衛は、『...

    大きな垂れ目と、巻き舌の話し方が独特だった

  • 2024.07.25
    夜明けのコーヒー、二人で飲もう…夏が来ると思い出す...

    作詞・岩谷時子、作曲・いずみたくの名曲

  • 2024.07.22
    昭和39年、純愛ドラマの先駆けとなった東芝日曜劇場...

    純愛ドラマ「愛と死をみつめて」のミコ役でトップ・スター

  • 2024.07.18
    ちあきなおみ版が複数のCMに起用されスタンダード・...

    永六輔と中村八大の「六・八コンビ」による〝黒い〟シリーズ第2弾

  • 2024.07.17
    老いが追いかけてくる ─萩原 朔美の日々   

    第19回 キジュからの現場報告

  • 2024.07.17
    [ロマンスカーミュージアム]の夏休みイベントは親子...

    7月17日(水)から

  • 2024.07.17
    <自然災害から身を守るPart2> 大型台風、暴風...

    大型台風、暴風の季節に備えて

  • 2024.07.16
    世界中の映画祭を席巻した、メキシコの新鋭監督の『夏...

    応募〆切:8月4日(日)

  • 2024.07.16
    山梨県立文学館開館35周年の特設展は「文学はおいし...

    7月13日(土)~8月25日(日)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!