87年にリリースされた「君だけに」も好きな曲だが、僕が「まいったネ 今夜」に特に心を奪われたのは、前に紹介した田原俊彦の「ハッとして!Good」同様、やはりジャジーな曲だったからだ。調べてみると、作詞・作曲は同じ宮下智だった。ベース音から始まるイントロ、ポップなピアノ演奏、トランペットにトロンボーンが加わるビッグバンドのサウンドの醍醐味、間奏のピアノにシャバダバダバダバ……のスキャットが、ジャズのムードを盛り上げてくれる。「ハッとして!Good」が明るい表通りのジャズだとしたら、この曲は、ブルーナイトのジャズだ。なんて大人な編曲なのだろうと、当時思ったものだ。編曲は石田勝範で、「西部警察」「キテレツ大百科」「29歳のクリスマス」など多くのテレビドラマ、アニメの音楽を手がけた人物である。この編曲だったから、僕はこの曲からドラマを感じとったのかもしれない。
歌詞にダンステリアが出てくるので、この曲の舞台はニューヨークかもしれない。ダンステリアは80年代に存在したニューヨークの人気ナイトクラブである。だが、僕の頭の中には裕次郎や小林旭、赤木圭一郎らが闊歩していた古い日活映画のような懐かしい昭和のスクリーンが映し出された。舞台は戦後の〝ハマの社交場〟とも呼ばれた元町のクリフサイドあたり。駐車場には大型のアメ車が並ぶ。曲の中の女が乗り込むのは銀色のリムジン。華やかなドレスも高価な宝石もすべて持っているのに、愛だけが足りないと思わせる女。もしかしたら、ハマの有力者の情婦かもしれない。危険な香りもする。むやみに手を出すと痛い目にあうかもしれない。そこに、レイモンド・チャンドラーの小説の探偵フィリップ・マーロウの姿も重なってくる。心を奪われ熱い視線を向けても、彼女は心を閉ざしたまま微笑むだけ。結局、この一夜はシルエットに終わってしまう。かくのごとく、僕の中で妄想が膨らんだ。
少年隊としての音楽活動と並行して3人はそれぞれに舞台やテレビドラマでも俳優としても活躍し多くの作品に出演している。現在も、それぞれの道を歩み続けている。ジャニーズ史上、最もクオリティ、スキルの高いアーティストとも評されている。3人ともバク転ができ、ダンスも上手い。特に、「まいったネ 今夜」で見せたダンスは、いつもよりセクシーに感じた。2020年、NHKの歌番組「うたコン」で、歌い継がれる歌として、少年隊の事務所の後輩Snow Manがこの曲を歌って踊り、披露していた。Snow Manのダンスにも色気を感じた。「まいったネ 今夜」は、この先も歌い継がれる昭和の名曲に違いないと確信している。
文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫