24.08.08 update

洋楽のリズムと日本のメロディを合体させ、1967年日本レコード大賞に輝きGSブームを牽引した日本歌謡史に燦然と輝く大ヒット曲 ジャッキー吉川とブルー・コメッツ「ブルー・シャトウ」

 そして、67年3月15日に「ブルー・シャトウ」がリリースされる。作詞は橋本淳、作曲は井上忠夫、編曲は森岡賢一郎が手がけた。68年時点で150万枚の売上を記録しており、67年の日本レコード大賞を受賞し、紅白歌合戦にも2回目の出場を果たした。洋楽のリズムと日本的なメロディの新しい組み合わせを考えたという井上だが、「ブルー・シャトウ」の大ヒットにより、GSの悲劇が始まったと思うとも、その後振り返っている。

 つまり、もっと洋楽的な新しいものを目指していたグループ・サウンズにとっては、「ブルー・シャトウ」の大ヒットにより、同テイストの曲調が、もっと言えば歌謡曲調のメロディが〝売れ線〟として求められるようになってしまったという意味での悲劇である。確かに「亜麻色の髪の乙女」、スパイダースの「夕陽が泣いている」などのヒット曲には、洋楽の色合いが薄い。ブルー・コメッツのその後の曲も「マリアの泉」、「北国の二人」、「すみれ色の涙」(81年の岩崎宏美がシングル曲でカバーしている)、「草原の輝き」(紅白3回目の出場で披露)とヒット曲を出し続けるが、歌謡曲調のサウンドである。「さよならのあとで」などは、ムード歌謡的な色合いである。だが、「ブルー・シャトウ」は、子供からシニア世代にいたるまで万人に受け入れられた大ヒット曲であり、日本の音楽史に刻まれる一曲となったのは紛れもない事実である。歌詞のそれぞれの語尾に「トンカツ」「ニンニク」「コンニャク」「テンプラ」など食べ物の名前をつけた替え歌まで子供たちの間では大流行となり、社会現象と言える状況まで巻き起こしたのである。

 大ヒットの影響は、歌謡界の女王でありながら、常に新風を取り入れ前進を続ける美空ひばりの希望により「真赤な太陽」(作詞:吉岡治、作曲:原信夫)でジョイントするという、大きな栄誉までもたらした。編曲は井上忠夫である。美空ひばりが、初めてミニスカートを着用し、ゴーゴーダンスを踊りながらブルー・コメッツをバックに歌う姿は大いに話題になり、ミリオンセラーとなった。GSサウンドは、そして「ブルー・シャトウ」は、美空ひばりの感性をも刺激していたのである。

 72年にコロムビアとの契約打ち切りと共に、高橋、小田、井上はブルー・コメッツを脱退し、二代目ブルコメが結成されるが、GSとしてのブルー・コメッツの事実上の終焉であり、GSブームを支えた多くの有名グループが既に解散していたことから〝最後のGS解散〟と言われた。

 井上はその後、井上大輔として、多くのミュージシャンに楽曲を提供し、作・編曲家としてヒット曲を量産している。郷ひろみの「2億4千万の瞳」、シブがき隊の「NAI・NAI 16」「100%…SOかもね!」、フィンガー5の「恋のダイヤル6700」「学園天国」、ラッツ&スターの「ランナウェイ」(シャネルズ名義)に「め組のひと」などなど、今も世代を超えて歌い継がれている。

 スーツ姿でエレキサウンドを奏で「ブルー・シャトウ」を歌うブルー・コメッツは、当時中学生の僕にはすばらしく洗練された都会的な大人に映った。そしてフルートを手に歌う井上忠夫の姿にも刺激された。僕は「ブルー・シャトウ」を歌うジャッキー吉川とブルー・コメッツをテレビで観てフルートを始めた。

文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫

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