24.08.22 update

奇才・角川春樹の映画進出とともに誕生した角川3人娘、薬師丸ひろ子、渡辺典子、原田知世。中でもユーミン作詞作曲「時をかける少女」歌う可憐な原田知世が忘れられない

 1970年代半ば、角川春樹という奇才のもと、低迷していた日本映画界を活気づけたのが角川映画である。それは、小説と映画と主題歌をヒットさせ、ベストセラー作家とスターを生んでいくもので、メディアミックス手法と言われた。確か「読んでから見るか、見てから読むか」のキャッチコピーがあったが、これは今でも記憶に残る名コピーだ。

 角川春樹が創業者の父・角川源義の会社、角川書店に入社したころは、角川文庫の他、国語などの教科書の出版を事業の柱としていた。1967年アメリカではダスティン・ホフマン主演の青春恋愛映画『卒業』とともに原作の小説、主題歌も大ヒットしていることを知ると、映像と活字、音楽の三つを融合させベストセラーづくりができると確信した。源義が亡くなり、春樹が社長に就任すると、角川書店とは別に映画製作のための株式会社角川春樹事務所を設立。そして角川春樹事務所が76年10月東宝から配給した第1作品が、『犬神家の一族』である。監督は市村崑、石坂浩二主演で、高峰三枝子、草笛光子、小沢栄太郎、三國連太郎、島田陽子、あおい輝彦ら豪華俳優陣が出演し、音楽は「ルパン三世」シリーズの作曲家としても知られる大野雄二が担当した。さらに画期的だったのは「金田一さん、事件ですよ」というキャッチコピーがテレビのスポットCMでも流されたことだ。それまで映画業界は宣伝にテレビを使うことはなかった。映画の宣伝と同時に全国の書店で角川文庫のフェアなども展開すると、横溝正史の文庫本も大幅に売上げを伸ばした。横溝正史は江戸川乱歩と並ぶ推理小説の二大巨匠だが、60年代は忘れられた存在になっていた。40年代に刊行された『八つ墓村』をはじめ『獄門島』『本陣殺人事件』『悪魔が来りて笛を吹く』『女王蜂』などが次々と角川文庫で刊行され、空前の横溝ブームが起こった。77年には文壇長者番付で第3位、いかに著作本が売れたかを物語っている。

 第2弾が77年公開の『人間の証明』である。原作は森村誠一、監督は佐藤純彌、脚本は一般公募に応募したベテランの松山善三、配給は東映だった。岡田茉莉子、三船敏郎、鶴田浩二といった日本映画の大スターとともに、松田優作が出演。「ママ ドゥ ユー リメンバー」と絞り出すような声で歌うロックシンガー、ジョー中山の「人間の証明のテーマ」は、テレビCMでもよく流され、映画より先に耳についてしまった。書店では「森村誠一フェア」も開催、当然のごとくベストセラーになった。

 78年公開の『野生の証明』は、高倉健が主演。13歳の薬師丸ひろ子が長井頼子役で女優デビューした。ヒロインの頼子役には公開オーディションが開催され、1200人以上の応募があったが、角川は薬師丸の〝目〟を見て決めたという。その後薬師丸は80年『翔んだカップル』、『ねらわれた学園』に主演。『セーラー服と機関銃』『探偵物語』『Wの悲劇』『メイン・テーマ』などの主演映画の主題歌も歌い大ヒットした。81年『セーラー服と機関銃』が公開されたの頃の薬師丸の人気は途轍もないものだった。封切り日には、薬師丸の舞台挨拶に若者が殺到し、翌日大阪の梅田と道頓堀の東映の映画館には前夜からファンが並び、入場できなかった人たちの間で騒動が起き大阪府警は機動隊を出動するほどだった。ところが、薬師丸は大学進学のため入試が終わるまで女優を休止することになり、ポスト薬師丸となる新しいスターを発掘する必要があった。

 そこで実施されたのが「角川映画大型新人女優コンテスト」だった。優勝者には82年12月公開予定の山田風太郎原作、真田広之主演の『伊賀忍法帖』のヒロインになることができる。このオーディションに応募してきたのが原田知世だった。原田は映画『魔界転生』をみてから真田広之のファンになり、真田に会えるかもしれないという子供らしい動機から応募した。長崎出身の当時14歳の原田は、九州大会で特技のバレエを披露して勝ち進み、その将来性を直感した角川は特別賞を与えた。優勝は渡辺典子だったが、薬師丸ひろ子と渡辺典子とともに角川3人娘といわれ角川映画の看板女優としてアイドル的な人気を博していく。

1 2

映画は死なず

新着記事

  • 2024.09.13
    アメリカ合衆国、内戦勃発!再び起こり得る〈南北戦争...

    10月4日(金)全国公開

  • 2024.09.13
    国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき 」観賞券

    応募〆切:10月10日(木)

  • 2024.09.12
    堤真一&瀬戸康史、大東駿介&浅野和之という2組によ...

    公演:東京、大阪、福岡

  • 2024.09.12
    谷村新司、堀内孝雄、元モーニング娘の安倍なつみ、や...

    水越恵子「Too far away」

  • 2024.09.12
    SOMPO美術館「カナレットとヴェネツィアの輝き」...

    応募〆切:10月10日(木)

  • 2024.09.11
    新選組・副隊長の土方歳三をニヒルな風貌と演技で天下...

    土方歳三の雛型を創り上げた栗塚 旭

  • 2024.09.05
    引きこもりの愉しみ─萩原 朔美の日々   

    第22回 キジュからの現場報告

  • 2024.09.05
    尾上松也、瀧内公美、段田安則らが織田作之助の『夫婦...

    東京、愛知、大阪公演

  • 2024.09.05
    今年4月、84歳で逝ったいぶし銀のような名バイプレ...

    佐川満男「今は幸せかい」

  • 2024.09.04
    上村松園の渾身の名作《雪月花》三幅対も公開!皇居三...

    9月10日(火)~10月20日(日)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial