ちあきなおみは80年代に入ると、シャンソン、スタンダード・ジャズなど幅広いジャンルの歌を歌い始め、特にポルトガルの民族歌謡ファドに深く関心を持ち、ファドを集めたアルバム『待夢』を発表し、ちあきなおみの歌い手としてのさらなる可能性を見せつけられることになる。
88年にはCBS・ソニー、ビクターを経てテイチクに移籍し5年ぶりとなる30枚目のシングル「役者」をリリースし歌謡曲の世界でも「ちあきなおみ」というジャンルにさらなる奥行をみせる。しばらく遠ざかっていたテレビの歌番組などにも精力的に出演するようになり、続いて「紅とんぼ」をリリースする。吉田旺作詞、船村徹作曲による新宿駅裏の小さな酒場の店仕舞を歌ったこの曲は、まさにちあきなおみの表現力ここに極まれりといった感の楽曲だった。
この曲を聴いたとき、初の舞台出演となる89年のミュージカル『LADY DAY』で演じたジャズ・シンガーのビリー・ホリディ役を思い出した。ほぼ一人芝居と言えるこの舞台は大いに話題になり翌年にも再演されたが、ちあきなおみの歌は、これこそまさにドラマティックと呼べる情感にあふれていた。
「紅とんぼ」は大きな反響を呼び、88年に11年ぶりとなる紅白歌合戦に通算9回目の出場を果たした。
また、水原弘のオリジナル曲をカバーした「黄昏のビギン」や、50年に小畑実が歌った「星影の小径」をカバーし、「黄昏のビギン」は、京成電鉄「スカイライナー」、ネスレ日本「ネスカフェ・プレジデント」、トヨタ自動車「ReBORN DRIVE FOR TOHOKU」の、「星影の小径」は、AGF「マキシム・レギュラーコーヒー」、ヤナセ「アウディ」、キリンビバレッジ「実感」のテレビCMに使用され、名曲を時代を超えて伝えることに貢献している。2曲ともちあきなおみのオリジナル曲だと思っている人たちも多いかもしれない。
ちあきなおみの現時点でのラスト・シングルは91年にリリースされた「赤い花」で、この曲もちあきの代表曲としてしっかりと多くの人の心に刻み込まれている。











