アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。
お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。
1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。
ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介する。
映画『喜びも悲しみも幾歳月』は、1957(昭和32)年に公開されている。当時8歳のぼくは母と一緒に場末の小さな劇場でこの映画を観たことだけは、はっきりとした記憶にある。空席などなく立ち見客で立錐の余地もない暗い館内が怖かった。映画は、佐田啓二、高峰秀子が灯台守の夫婦となって、戦前、戦中、戦後を日本中の灯台を転々としながら暮らし勤務をつづけるファミリーヒストリーだった。ただ、残念ながら映画のストーリーやディティールは覚えていない。家族とともに海をゆく船舶の安全を守るという使命だけが拠りどころの、厳しい駐在生活が描かれていたのだろう。鮮明なのはカラー映像で、日本各地の季節の美しい風景と雪に埋もれ吹雪に耐える厳しい光景、そして子ども心に日本には人里離れた岸壁に立つ灯台がこんなにあるのか、という驚きが残った。
後になって知ったが、映画でロケーションが行われた灯台を列挙してみると、①観音埼灯台(三浦半島)、②石狩灯台(石狩)、③伊豆大島灯台(伊豆大島)、④水ノ子島灯台(豊後水道水ノ子島)、⑤女島灯台(五島列島)、⑥弾埼灯台(佐渡島)、⑦御前埼灯台(御前崎)、⑧安乗埼灯台(志摩)、⑨男木島灯台(瀬戸内海)、⑩日和山灯台(小樽市祝津)、⑪金華山灯台(牡鹿半島)、⑫塩屋埼灯台(いわき市)、 ⑬尻屋埼灯台=尻矢埼灯台(下北半島)、⑭犬吠埼灯台(銚子市)、⑮綾里埼灯台(大船渡市)。夫婦の再赴任地を除いても15カ所、まさに日本縦横断の大作だったのだ。映画全盛期の昭和という時代の、けた外れの大ヒット作品だったに違いない。
後に木下惠介監督は、1965(昭和40)年、1972(昭和47)年、1976(昭和51)年と三度にわたってテレビの連続ドラマとして監修、1986(昭和61)年には『新・喜びも悲しみも幾歳月』としてリメイク版の映画化の監督を手掛けているが、ぼくは東映映画や日活映画なども上映していた映画館で観たこの8歳のときの松竹映画しか観ていない。それでも、若山彰の歌唱による同名主題歌の「喜びも悲しみも幾歳月」をはっきりと4番まで歌えるくらい覚えているし、ぼくにとって忘れられない名曲なのである。テレビドラマやリメイク版も主題歌は、作詞作曲・木下忠司、歌、若山彰だったという。