映画女優という
衣が似合う
非日常の存在
オリジナルの撮り下ろしで紹介する昭和の銀幕の女優シリーズの最終回を飾っていただいたのは、江波杏子さん。パーティなどでは何度か一方的にお目にかかっていた。デザイナーのコシノジュンコさん、画家の金子國義さん、人形作家の四谷シモンさんなど、時代の最前線のクリエーターたちとご一緒だった記憶がある。江波さんの印象は、とにかくエキゾチック。そして硬質な語り口。猫のような瞳としなやかな姿態。そして、はっきりと物を言う現代女性、神秘や謎が似合う女、そして恐い女、と役柄を想像してみたとき、映画のセットのような撮影場所が浮かび、新宿にある昭和が香るバーで実施した。
お相手は俳優で演出家の白井晃さん。お2人は舞台で女優と演出家として出会った。そして2か月先には3度目のタッグとなる舞台公演が控えていた。江波さんは「仕事で私を泣かせたのは白井さんだけです」と告白。演出家の白井さんの発言に説得力があり、本質をついていることに江波さんも思いいたり涙が出たのだと説明してくれた。白井さんは「江波杏子という厳然たる存在であり、それはちょっとやそっとでは身につかない積み重ねられた経験、美貌も含めての存在感の上に成立するもの」と讃えていた。写真は、「最近の役柄とはひと味違うみずみずしい江波杏子さん」と多くの方々から好評を得た。2018年に亡くなる直前まで、映画、テレビドラマ、舞台に出演を続けていた江波さんの訃報はまさしく寝耳に水の知らせだった。生涯現役女優を貫いた見事な女優だった。
あとがき
雑誌の編集という仕事を通して、というより「コモレバ」の企画を通して、普通ではお会いできない数々の銀幕の名花に直にお目にかかることができ、親しく話をさせていただく好機を得ることができている。「誰のファンですか」「誰が一番キレイだった?」などと、面白おかしく訊かれることも多いが、それに答えるのは無理な話だ。なぜなら、基本的にすべての女優さんをリスペクトしているのだから。ただ、ファンとして遠目で見ているときなら、答えられたかもしれない。だが、仕事でお会いした女優たちは、みなさん美しく、プロフェッショナルとして仕事に誇りを持ち、人としても魅力にあふれた方たちばかりだった。その長いキャリアの中で積み重ねた経験により、人が育てられるということもあるが、それは品性あってのことだ。そもそもの品性がなければはじまらない。お会いしたすべての女優たちはみな、品性の人だった。第5号の表紙で草笛光子さんとご一緒願った萩原朔美さんが、草笛さんが醸し出す雰囲気は常に品性というドレスを纏っていると言い、「演技に対する真摯な熱情が品性と生成し醸造しているから」ではないか、と言っていたが、それは表紙を飾っていただいた20人すべての女優さんたちに当てはまるような気がする。編集者冥利につきるこのすばらしき時間は一生の宝物である。