23.10.31 update

時には街の名コンサートホールで耳を澄ませたい


紀尾井ホール

紀尾井町といえば、紀州家、尾張家、井伊家の中屋敷があった一帯で、その町名をホールの名に冠した。そんな歴史と文化の漂う周辺の佇まいとホールの設えは、クラシック音楽を堪能するに相応しい。1 階ロビーのシャンデリアはパイプオルガンやハープを思わせる形状で優雅に飾られ、雪の結晶を思わせるようなホール内のシャンデリア6基は、重厚で格調高く、贅沢な空間を演出している。ともに日本を代表する造形作家の多田美波氏の制作による。また5階には邦楽専用の250 席の小ホールがあり、三味線や長唄などの演奏会が行われる。
〔住〕千代田区紀尾井町6-5〔問〕紀尾井ホールチケットセンター 03-3237-0061(10:00 ~ 18:00/日・祝日休)


重要文化財 台東区立旧東京音楽学校奏楽堂

1890(明治23)年、東京藝術大学音楽学部の前身、東京音楽学校の校舎として建築された。舞台正面のパイプオルガンは、徳川頼貞氏がイギリスから購入し、1928(昭和3)年に寄贈したもので、コンサート用としては日本最古。2 階のホワイエ(待合ロビー)が往時を偲ばせている。2015(平成27)年12 月から約3年をかけて保存活用工事などが行われ、18(平成30)年11 月2日にリニューアルオープンした。1階では、「赤い靴」「七つの子」などの童謡や歌劇を作曲した本居長世が自ら記した楽譜や写真、また山田耕筰、瀧廉太郎らの資料、本館の歴史や構造がわかる模型などが展示されている。旧奏楽堂主催の東京藝術大学音楽学部の学生及び院生による演奏で日曜コンサートが毎週あり、第1、第3 日曜日はチェンバロの演奏、第2、第4 日曜日はパイプオルガンの演奏が午後2時、3時の2回あり(約30 分)、入館料の300 円で聴くことができる。名音楽ホールが時代を越えて今も活動しているのは何とも嬉しいことだ。
〔住〕台東区上野公園8-43
〔問〕台東区立旧東京音楽学校奏楽堂 03-3824-1988


銀座 王子ホール

1992 年に開館した王子ホールは、25 周年を機に半年以上をかけて耐震面などのリニューアルを終え、2019 年10 月再スタート。響きを重視したシューボックス・スタイルの構造で、国内外のクラシック室内楽を楽しむことができる。全315 席、1 席当たりのスペースに余裕を持たせ、銀座の一等地にあることを考えると日本一の単価かもしれない、と下世話な計算がよぎる。毎月開催される「銀座ぶらっとコンサート」と、〝まろ〟の愛称で親しまれているNHK 交響楽団のコンサートマスター篠崎史紀氏が様々なゲストを招いて行われる「MAROワールド」が人気だ。「銀座ぶらっとコンサート」は、スポンサーのヨックモックのお菓子とお茶をいただきながら、終演後には1 階で演奏者との交流の場が設けられる。作曲家・ピアニストの加藤昌則が店主を務めるシリーズ「caféギンザ」や、王子こと宮本益光の魅惑の歌声と軽快なトークが人気の「宮本益光の王子な午後」など、チケットの発売と同時に完売する公演も多数なので早めのチェックが必要だ。3 階の楽屋周りには歴代アーティストの写真と直筆のメッセージが並ぶ(一般公開はされていない)。
〔住〕中央区銀座4-7-5
〔問〕王子ホールチケットセンター 03-3567-9990


サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

サントリーホールといえば、世界最大級のオルガンが正面に設えられた大ホールで知られるが、小ホールのブルーローズは、演奏者の息遣いや感情豊かな表情を間近に感じられる、室内楽の理想的な空間だ。寄木細工の床もさることながら、木が各所に使われていて、豊かな響きと雰囲気を醸し出している。客席が可動式になっており、舞台も7つのセリで自在に操られるため自由な発想で新しい音楽空間の演出が可能だ。英語のBlue Roseは不可能の代名詞のような言葉だが、サントリーがバイオ技術によって2004年に新品種「青いバラ」を開発。この小ホールは、多くのアーティストの新たな挑戦の舞台として活用して欲しいという思いから「ブルーローズ」と名づけられたという。ブルーローズでは毎年6月に開催されるチェンバーミュージック・ガーデンが音楽通には知られる。まさに音楽の〝庭〟で国内外の演奏家たちが多彩なプログラムを楽しませてくれる室内楽の祭典のことで、チェリストでありサントリーホール館長の堤剛氏が自ら演奏し構成もする主催公演だ。
〔住〕港区赤坂1-13-1
〔問〕サントリーホールチケットセンター
0570-55-0017(10:00~18:00 休館日を除く)


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