24.04.03 update

【インタビュー】若村麻由美 世界的に注目されるゼレールの〝家族3部作〟すべてに出演できることは俳優冥利に尽きる喜びです。そして、2作同時上演という俳優人生初の体験に心が躍ります。

家族3部作すべてに出演することの俳優としての大きな意義

「家族のそれぞれの立場を象徴的に描いている3部作すべてに関われるということは、演者である私にとってもゼレール作品の完結でもあるわけです。そしてやはり、この3部作を通してラディスラス・ショラーというすばらしい演出家と出会えたということ。それはもう、このカンパニーのおかげなのですが、そういうすばらしい演出家と出会い、3部作を完結できることの意義は、3部作それぞれの作品に、相互作用としてさらなる深味を与えるということですね。そんな機会はめったにないわけです。それぞれ単体でもすばらしい作品なのですが、やはり自分の体を通してきたという他の2作品での経験値が私自身の中に残っているので、そこを含めて最後の『La Mère 母』を演じられるというのは、とても俳優冥利に尽きるなと思っています」

 演出家ショラーは、俳優・若村麻由美を、稽古を重ねる中で、ミルフィーユの生地のように少しずつ多層的に役を構築していく俳優だと評している。

 今回は『Le Fils 息子』と『La Mère 母』の3部作の2作が同時に隣り合わせの劇場で上演される画期的とも言える上演形態がとられている。たとえば、俳優としてはマチネで『Le Fils 息子』に出演し、同じ日のソワレで『La Mère 母』に出演するということだってある。俳優としての混乱があっても不思議はないと思えるのだが。若村麻由美にとって、この上演形態は、高いハードルだと感じているのだろうか、それとも、その難しさの向こう側に面白味や、やりがいを感じられるのだろうか。

「演じ手としては難しいです。難しいし、生まれて初めてやることなので、どういうことになるのかしらと。ただ、別の家族の物語とはいっても、ちょっとリンクすることがあったり、セリフも同じ言葉が出てきたりと、スリリングな面白味も感じています。なので、観客の方にとっても2作品を観ることで、それぞれの作品がすごく深まると思います。さらに、『Le Père 父』まで観ていらっしゃる方でしたら、観る側としての3部作完結をまっとうされる観客ということになるわけです。その方には、今回の機会を絶対見逃してほしくないですね。ゼレールが、3部作を同じ俳優でやってほしいと望んでいたというのを聞いて、そこにもやはり意味があるのだと思いました。観客の方々にとってこんなにいいチャンスはないわけですよ。演じる側はとても大変です」

「この役をあなたに」というその言葉に応えたい

 昨年はテレビドラマ「この素晴らしき世界」に2役で主演し、お茶の間のファンを楽しませてくれた若村麻由美。その他にも、「飢餓海峡」の杉戸八重、橋田壽賀子脚本の「源氏物語」での光源氏に因果応報の罪深さをつきつめる存在となる女三の宮、「八つ墓村」のヒロイン森美也子、NHK連続テレビ小説「おちょやん」の女座長・山村千鳥、大河ドラマ「春日局」での四代将軍の母となるお楽、同じく「篤姫」での和宮の母・勧行院、さらに、「黒い十人の女」、「夜桜お染」、「柳橋慕情」、「科捜研の女」などなど、幅広い役柄で、常に視聴者に期待を抱かせる俳優とお見受けする。

 また、記憶に残る舞台作品を並べるだけでも、紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した98年のT・P・Tの『テレーズ・ラカン』をはじめ、菊田一夫演劇賞を受賞した『チルドレン』(ルーシー・カークウッド作、栗山民也演出)、読売演劇大賞優秀女優賞を受賞の『ザ・空気』(永井愛作・演出)に『子午線の祀り』(野村萬斎演出)、『放浪記』の日夏京子役、『頭痛肩こり樋口一葉』の花螢役、『少女仮面』(唐十郎作、杉原邦生演出)の春日野八千代役など印象深い作品に出演し、その都度、幅広い芸域で演劇ファンたちに身を乗り出させる。無名塾出身ということで、やはり、舞台というのは、若村麻由美にとって特別な場所だと感じさせる。

「舞台の劇空間を創る仕事をしたいと思ってこの道に入ったのですが、そういう意味で言えば、俳優も観客も生きている人間同士が、ライブで同じ劇空間を体験するというこんなにスリリングで刺激的で面白いことはない、と思っています。特に今回は、小さな空間の中で、とても濃縮な時間を過ごせるので、もしかしたら相手役よりも前列の観客の方が近いということも起こりうるかもしれません。そのくらいの距離感で呼吸を感じられるような劇場でやらせていただけるというのは、この2つの作品にとてもふさわしいと思えるんです」

 今回の公演は理想的な奇跡のような2作品同時上演になると思っている、と本人自身が一番期待しているようすだ。

「私たちは毎回同じセリフを言うのですが、その日にたまたま集まった観客の方たちの空気によって、芝居は微妙に変わるんですよね。なので、お客様も共演者だといえます。微妙に変わるというのは意識したものではなく、自然に変わるんですよね。人間が300人くらい集まると、それだけで何かが変わるんじゃないでしょうか。だから、お昼だったり、夜だったりでも変わったりしますし、そういうのはライブならではじゃないでしょうか。醍醐味と言えるものだと感じています。舞台はお客様と一緒に作品を作っていることを感じさせてくれる場所です」

 デビューして40年近く、舞台のみならず、映画、テレビドラマといった映像作品でも、ますます意欲的に観客を喜ばせてくれる第一線で活躍を続ける若村麻由美の原動力は、「声をかけていただくということですね」と言う。が、クリエイターたちは若村麻由美という俳優の何かに刺激を受けているからこそ、声をかけるのである。

「やはり「あなたに」、「この役をあなたに」と言っていただけることは、俳優として本当に幸せなことだとつくづく感じますし、創る仕事をしたいと志した以上、そう言っていただけないと俳優として存在できないので、原動力は「あなたに」と言っていただいたから、それに応えたいというのが一番です」

 全世界の演劇界が注目する今回の公演の共演者にならない手はない。

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