展覧会までの道のりとこれから
─── それにしても、世界がコロナ禍の影響がある中、大規模なインスタレーション作品を含めて多彩な130点を集めて設置するには相当ご苦労があったと思います。
片 岡 展覧会の入口を飾る、フィリダ・バーロウの大型のインスタレーションは、コロナ禍で作家の来日が叶わず、リモートで設営することになりました。まずロンドンの彼女のスタジオで模型を作り、設営現場にはiPad5台を設置して上からも横からも確認できるようにし、オンラインで作家とやりとりしながら、作品を組み立てていきました。
萩 原 コロナ禍で一人も来日することができなかったんですね。それは大変だったでしょう。
片 岡 ZOOMをセットしてくれるようなアシスタントがいるアーティストはオンラインでのやりとりが可能ですけれど、メールだけのやりとりで進めなければいけない人もいました。本当はオープニングに全員がそろって、記念写真を撮りたかったのですけれど。
─── 萩原さん、アナザーエナジー展で印象に残った作品は?
萩 原 僕は最近、アーティストになっているので、自分だったらこうするよという形でしか見ません。最近、ある美術館が僕の全作品を所蔵してくれたんです。もう嬉しくて(笑)。だから1世紀待った106歳のカルメン・ヘレラの気持ちと同じです。版画をやっているときに、中原佑介さんがリバプール・ビエンナーレに推してくれたのですが、そのころは広告の仕事もしていて芸術の仕事などできない状態でした。だから反省して、作品を見る時は、人の作品としてみないで、自分の作品のネタとしてみています。
その中でも、韓国のキム・スンギが、「クリエイティブは自分を消すこと」と言っていましたが、よくわかるんです。表現というのは、自己主張でなく、自分を消し去ること。寺山修司も物凄い量の仕事をしながら、自分を消し去る作業をしていました。作品はすごく面白くて、自分がなくなってしまうというのが理想です。
片 岡 彼女は韓国の伝統的な文人教育を受けていて、東洋思想の基礎もありながら、70年代のフランスに行きました、今回、《森林詩》という詩の朗読パフォーマンスと彼女自身のビデオ作品をランダムに組み合わせた映像インスタレーションを展示しています。フィックスされた映像ではなく、東京の天候によりアルゴリズムが映像を決めていくので、毎日変わっていきます。また、世界中の100人以上の詩人や芸術家、哲学者によるポエトリー・リーディングを会期中の満月の日の夜に実施し、ライブ配信しています。
萩 原 録画じゃなくて生ですか。翻訳もしない。面白いですね。
片 岡 一般の人が他者の詩を読んだり、詩人が自分の詩を読んだり、三面スクリーンにいろいろな人が登場します。