20.09.28 update

表紙で振り返る「コモレバ」の10年

心ある女優だからこその
不満と不安を抱えて生きた
生真面目な女優

第26号 大原麗子
(2015年12月)
©Yuji Hayata/JDC

 亡くなったのが2009年だから、死後10年以上も経っているが、大原麗子という女優もいつまでも人々の記憶に刻まれ、語り継がれる女優である。仕事ではなかったが、一度だけ大原さんにお会いしたことがある。帝国劇場に出演中の浅丘ルリ子さんの楽屋におじゃますると、先客がいた。それが大原さんだった。ルリ子さんが紹介してくださって、美しい女優2人に囲まれて至福の時を過ごさせていただいた。「近々舞台出演のご予定は?」と大原さんに訊ねると、「今、脚を悪くしているので」と答えていたが、その後、大原さんが舞台に立つことはなかった。お2人の時間をじゃましないように一足先に劇場にもどると、後から来た大原さんは私の一つ前の席に座った。振り返り私に気づき「あらっ」と、あのハスキーでちょっと甘えた口調で微笑まれたとき、周りの観客の視線を浴びることになり、ちょっとした優越感にひたった。それにしても、マネージャーもつけず一人でいらしているんだとも思った。

 早田雄二撮影の大原麗子の写真を見た時、弊社社長が「今回はカラーで行こうよ」と提案した。大胆な配色のサイケデリックなドレスが印象的で、社長の提案は的を射ていた。斯くして、「コモレバ」誌で唯一のカラー表紙が誕生した。大原さんの弟さんも「左手を挙げているのがいかにも麗子らしい写真です」と喜んでいただけたようである。女優・大原麗子論を執筆してくださったのは、演出家として多くの作品で大原さんと組んだ鴨下信一さん。鴨下さんも表紙の写真を見て「豪奢で麗子さんのスター性をよく表現している」と言っている。数々の現場を通して鴨下さんは、大原麗子がかかえる「自分の存在への不満と不安」というものを見抜いていた。「自分はこれでいいのか」が嵩じての「自分は女優をやっていていいのだろうか」という大原の悲痛な声を耳にしている。そして鴨下さんがいまつくづく思うのは、あんなに「女優らしい女性」は他にいなかったのに、ということだ。60代、70代の女優・大原麗子を見たかった、と多くの人々がその死を惜しんでいる。

芸能史に名を刻む
花も実もある
見事な大女優

第27号 淡島千景
(2016年3月)
©Yuji Hayata/JDC

 淡島千景という女優の名を知ったのはNHK大河ドラマ第一作の「花の生涯」だった。ヒロインである村山たかの役だった。井伊直弼は先代の尾上松緑、長野主膳は佐田啓二だった。私は小学校3年だったが、このドラマのさまざまなシーンが記憶に残っているので、一見、子どもには難しいと思われるようなドラマでも、子どもなりの感性で意外と受け入れているものである。淡島さんは1924年生まれで、京マチ子、高峰秀子、越路吹雪、乙羽信子もこの年の生まれだから、女優豊作の年だったようだ。淡島千景も私のお気に入りの女優の一人となり、その後の出演映画なども見続け、「淡島千景には色気がある」などと、冷汗ものの生意気な口をたたいていた。

 淡島千景論を語っていただいたのは、漫画家の黒鉄ヒロシさん。黒鉄さんは映画『夫婦善哉』での蝶子の役と淡島千景その人を重ねて、女優・淡島千景の凄みと軽みを合わせ持つその資質に、メディアも世間も迂闊にも気づかず、その死後、改めて作品歴を見直して初めて舌を捲いた、と小気味良い紹介をしている。確かに、映画や舞台でヒロインも務めながら、同時に豊田四郎、小津安二郎、木下惠介、今井正、成瀬巳喜男、市川崑、さらには蜷川幸雄といった名監督、名演出家たちの要望にも応え、長谷川一夫、森繫久彌、尾上松緑といった主演俳優を引き立てる最高の相手役という役割も見事に果たしている。「朦朧体の画のように、輪郭は見せず、霞む景色の中にようやっと淡い島かげのようなフォルムを、見える眼には見せて」という黒鉄さんの表現は、女優・淡島千景を見事に言い当てているのではないだろうか。

1 2 3 4 5

こちらの記事もどうぞ
映画は死なず

新着記事

  • 2024.03.01
    今から準備、青森県内の美術館5館によるアートフェス...

    青森県で現代美術を楽しむ!

  • 2024.03.01
    金塊強盗からスーパースターへ!信じられないような実...

    応募〆切:3月25日(月)

  • 2024.03.01
    森美術館 ブラック・アートと日本の「民藝」の融合、...

    4月24日(水)~9月1日(日)

  • 2024.03.01
    なぜ世田谷区はアーティストの街になったか。「世田谷...

    山口蓬春、植草甚一、舟越保武らも

  • 2024.02.29
    美空ひばり、成城の通りで歌う! 〝成城ロケ映画〟の...

    文=高田雅彦

  • 2024.02.29
    『ブギウギ』の淡谷のり子のドレスアップと重なる燕尾...

    東映映画『国定忠治』の名文句が忘れられない

  • 2024.02.28
    小林武史、三上博史、山口智子、種田陽平……映画『ス...

    文=河井真也

  • 2024.02.28
    破天荒なドイツのラッパーのサクセスストーリー!『女...

    3月29日(金)より全国順次公開

  • 2024.02.27
    芝居はボケ防止になるという話─萩原 朔美の日々 ...

    楽屋での雑談もまた楽し

  • 2024.02.27
    森ビルの「ヒルズ街育プロジェクト」が文部科学大臣賞...

    森ビルの街づくりが表彰される!

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

new 森ビルの「ヒルズ街育プロジェクト」が文部科学大臣賞を受賞

都市 森ビルの「ヒルズ街育プロジェクト」が文部...

森ビルの街づくりが表彰される!

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives

PEOPLE frontline Vol.1

PEOPLE frontline Vol.1

PEOPLE frontline Vol.2

PEOPLE frontline Vol.2
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!