—老体からは逃げられない。でも笑い飛ばすことは出来る—
萩原 朔美さんは1946年生まれ、2023年11月14日に77歳、紛れもなく喜寿を超えているのである。本誌「スマホ散歩」でお馴染みだが、歴としたアーチストであり、映像作家であり、演出家であり、学校の先生もやり、前橋文学館の館長であり、時として俳優にもなるエッセイストなのである。多能にして多才のサクミさんの喜寿からの日常をご報告いただく、連載エッセイ。同輩たちよ、ぼーッとしちゃいられません!
連載 第36回 キジュを超えて
友人の美術家が、
「最後の自分の作品に取り掛かる事にしたよ」
と真剣な表情で言った。やっぱり80歳目前になると、体力的にも出来る事と出来ない事を計算するもんだと思った。
私の母親、萩原葉子は、結果的に最後になる小説を書き上げた時に、次の作品のテーマを決めていた。体力は衰えていたけれど、書き上げる意欲は十分持ち合わせていた。
寺山修司さんの最後の詩は、明らかに自分の終わりを自覚した作品だった。


私はどうだろうか。最後の作品と思って何か計画したくなるだろうか。どう考えても、最後の作品のイメージが湧いてこない。
あれっと、気がついた。私は何をするにも、これが最後かも、と頭の隅で常に考えているのだ。(笑) 小学生の時に、デパートでオモチャを買ってもらった時、家に着くまでは死にたくない、と必死で祈った。あの時から、ずっと作り上げるまでは生きたいと祈る癖がついたのだ。(笑)だから、今さら最後の作品とわざわざ思って取り組まなくてもいいのだ。何という臆病な奴。おかしくなって笑ってしまった。

第35回 ひとりカフェの愉悦
第34回 オブジェは語る
第33回 まだまだ学べ
第32回 命のデータ
第31回 目の奥底
第30回 老いも若きも桜の樹
第29回 僻んではいません
第28回 私の年齢観測
第27回 あゝ忘却の彼方よ
第26回 喜寿を過ぎて
第25回 生前葬でお披露目する「詩」
第24回 我を唱えず、我を行う
第23回 老いは戯れるもの
第22回 引きこもりの愉しみ
第21回 楽しい会議は老化を防ぐ

はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長特別館長、金沢美術工芸大学客員名誉教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。











